第30回 親戚の集まりで夫が物理的に破壊されました。

文字数 2,122文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

1月1日からお年玉の取り違えという大事故を起こした私だが、同時に夫には物理的大事故が起こっていた。


夫方にはすでに成人になろうとしている姪がいる一方で、まだ小学生の甥や姪も存在する。

小学生と言っても今年にはもう中学に入るような年齢である。


しかし、この甥姪たちが特別無邪気なのか、小学生は今でもそうなのか知らないが、彼らの中では未だに「鬼ごっこ」が激アツであり、親族が集まるといつの間にか鬼ごっこが始まっているのである。


子供といえど既に自我やカラーが出ており、甥姪の中にもウンコチンコで一生笑ってそうな「THE小学生」もいれば、すでに思春期の香りを漂わせ、大人しくずっとスマホやswitchを触っているような子もいる。

しかし、鬼ごっこの威力たるや凄まじく、大人しい子も最初は参加を渋ってはいるが、やりだしたらウンコ勢と同じテンションで走り回っているのだ。


大人になるほど友人を作りずらくなるというが、それは「鬼ごっこ」を封じられているせいなのではないか。

鬼ごっこで閉じた心が開くのは、おそらく「ムキになる」遊びだからではないかと思う。最初は「ヤレヤレ」とラノベ主人公みたいな態度で参加していても、捕まれば悔しく、いつの間にか本気になり、「やるな」「お前こそ」になっているのかもしれない。


よって大人同士もレクレーションをするなら、ムキになる遊びをチョイスした方が良い。

私のおすすめは「桃鉄」だ。

あれを始めると最初は遠慮しあっているが、そのうち敬語はどこかへ行き、最終的に「殺すぞ」など、直接なワードが飛び交うぐらい打ち解けることができる。


大人も鬼ごっこをすれば良いと思うかもしれないが、それは正直お勧めできない。

何故なら中高年以上がムキになって動くと、人体破壊の恐れがあるからだ。


そして見事破壊されたのがうちの夫である。

毎年恒例の鬼ごっこには、大人の男衆が参加するのも恒例になっていた。

しかし、子供たちは年々成長していくが、大人は老いていくばかりである。

もう中学生になろうかという子供と同じ勢いで鬼ごっこをした結果、夫は足を豪快に捻ってしまった。


最初はただの捻挫と思われていたが、痛みがだんだん強くなり、ついにまともに歩けないレベルになってしまったため、1月2日に空いている病院に連れていったところ、夫は診察室から「松葉杖」で再登場してきた。


診断は本当に捻挫であり折れてはなかったのだが、医者曰く「これは痛い」そうで、しばらくこの調子らしい。


そして2日は私の実家に行く予定があり、行かないというわけにもいかないので、病院からそのまま実家に直行することとなった。


夫側の親族は子供が多い一方で、私の実家は老人しかおらず半分が要介護認定である。

さらにそこに松葉杖の夫が参上したため、健康な者の方が少ない集会になってしまった。


しかし去年は私の父親が入院で不在だったため、これでもマシになった方である。


退院したは良いが、現在車椅子かつ「要介護5」というマックス状態で帰ってきた父だが、それに対して、90半ばになる祖母はまだ要介護1と聞き、なぜか爆笑してしまった。


やはり人間は老になると年齢ではなく、「健康年齢」であるということが良くわかる。

しかし、要介護判定が重いというのは本人的には嫌かもしれないが、度数が高いほど介護保険が使える範囲が広がるらしいので「どうせなら高い方がいい」という考え方もある。むしろ判定されない方が困る場合も多いようだ。


このように新年早々「健康が一番大事」ということを、言葉ではなくビジュアルで思い知らされた正月だった。


実際、健康でなければ働けなくなったり医療費がかかったりと、他の部分も総崩れになるケースが多い。


健康を犠牲にして金を得ても、健康を害すことでその金は消える可能性が高い。

老になったら健康に気を付けることが大事だ。しかし「いつまでも若くあろうとする」のは良いが「いつまでも若いつもり」でいるのはヤバい。


夫が子供と同じレベルで動いて負傷してしまったように、「己の老いを見誤ったが故の負傷」はかなり多い。


庭木を自分で手入れしようとして、はしごから転落したり、チェーンソーで指を切り落としかけたというアグレッシブな例もある。


老になったら健康投資も重要だが、「外注費」もケチらない方が良い。肉体的に難しそうなことは「俺には無理だあんたに代わる」という、逆『刃牙』精神で譲った方が良い。


私は体を動かす行為は大体人に譲っているので、対策は万全である。

だが今猛烈にトイレを我慢しているので、早くこれも他人に譲れるシステムができれば良いとも思う。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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