第44回/19万円アナタはどう使う? 貯金? 投資? おウマの娘さんの強化?

文字数 2,299文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

先日10万~19万で出来る「自己投資」について記事を書いてくれと依頼があった。


19万円でできること、といえばソシャゲの「ウマ娘」でウマ娘を育てるために必要な「サポートカード」を「1枚」最大強化にするのにちょうどいいぐらいの金額だ。


しかし、これは普通程度の運があった場合であり、前世で善良な村を襲い命乞いする妊婦の腹に槍を突き刺すなどのカルマを背負っていた場合は、最大で「30万」ほど必要なので19万では多少心もとない。


何が言いたいかというと「30万円出せば確実に限凸できるウマ娘は親切」ということだ。

しかし19万円では確実とは言うことはできない。

不確定要素が大きい投資は投資ではなく「投機」であり、テーマにそぐわないので結局、別の話を書いた。


ソシャゲはそもそも「自己投資」というテーマに合っていないと思われたかもしれないが、そんなことはない。


投資の目的は、財を増やすために財を投じることだが、財とは金のことではなく「幸福度」のことである。

たとえ投資で巨万の富を得たとしても、初手で娘の進学費につぎ込み成功まで10年かかり、現在は豪邸でひとり暮らし、娘へのLINEは今日も既読無視、という状態なら、成功とはいえないだろう。


しかし、この世は金で得られる幸福があまりにも多く、金がないことで起こる不幸が多すぎるため、一般的に投資=金を増やすことという認識になっている。


そして「自己投資」は自己に投資してQOL、すなわち幸福度を上げる投資のことである。


だったら、ソシャゲではなく、ジムや英会話など自己に投資しなければ自己投資といわないのではないか、と思うかもしれない。


だが、投資というのは「これから価値が上がる見込みがある商品」に出資するのが基本中の基本である。

いくら財を投じても全く上がらない、むしろ下がる可能性が高い商品に金をつぎ込むのは、もはや投機ですらなく、ただの金ドブだ。


投資をするなら商品の分析、つまり自己投資なら「自己分析」が不可欠である。

自己分析の結果、私にどんな投資をしたところで「結果が出る前に投げ出す」ため、スキルや自己肯定感の上昇どころか「俺はいつもこうだ」という自己嫌悪を起こし、むしろ投資をしたせいでかえって暴落する可能性が高い、ということが分かった。

この分析を見ても、まだ自分に金をかけるというのは「3時間後に高校生が寿司を嘗め回す動画をアップする」とわかっている寿司屋の株を買うレベルの蛮勇だ。


それに対して、ウマ娘たちは財を投じれば投じるほど強くなる、という分析結果が出ており、自分のウマ娘が勝利すると嬉しいということもわかっている。


よって、人生の幸福度を上げるという意味の投資なら、やはり自分よりウマ娘に投資する方が正しいと言えるのだ。


ちなみに、「19万程度の金があったら何をするか」という問いに対しては結局「高級なウオーキングマシンを買う」と答えた。


それは典型的な自己への投資であり、普通の金ドブではないか、と思われたかもしれない。しかし、私の家にはすでにウオーキングマシンがあり、私はそれで1日1時間のウオーキングを数年続けている。さらに高額なものを買っても続けられると分析できたからだ。


株を買うのに企業の実績を調べるように、自己分析の際には過去の成功体験や失敗体験が参考になる。


前できたことなら今もできる可能性が高い、逆に「カルチャーセンターのジムを2回で投げ出した実績があるが、ライザップのパーソナルトレーニングなら続く」というのはかなりギャンブルみの高い投資である。


つまり自己投資はそれで自分が伸びる可能性が高いものを選んで投資しなければならない。


10年ひきこもり、という実績を携えて留学したとして「荒療治でワンチャンはじける」という可能性もゼロではないが、確率的には「ホームステイ先で引きこもる」可能性の方が遥かに高い。

ホームパーティ会場の隅でスマホをいじるフリをしながら「海外にいけば何かが俺を変えてくれる」と思った自分の愚かさにますます自己肯定感が暴落してしまうだろう。


私が自分に自己投資するとしたら「一人で家でできるもの」そして「スマホを見ながらできること」でなければならない。


1時間ウオーキングしていると言っても、実際はベルトコンベアーに乗っている菓子パン状態になりながらずっとスマホを見ているだけであり、これが健康に良い影響を及ぼしているかは不明である。


しかしそれでも「1日1時間ウオーキングをしている」という事実が私の成功体験になっており「もっと高級なベルトコンベアーにも乗れる」という自信につながっているのだ。


新しいことにチャンレンジするのも良いが、そこには「失敗」というリスクがある。

今できていることを伸ばす方が「手堅い自己投資」と言えるのだ。


つまり、私が合計20万以上のアイパッドを買って、PC、スマホ、アイパッドの3画面でTwitterを見ているのも「1日62時間Twitterを見ることに成功」という実績をもとにした、堅実な自己投資なのである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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