第1回 こんなパーティ抜け出して私と金の話をしないか?

文字数 2,348文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

前回「ひきこもり」をテーマにした連載を終えたばかりだが、実は並行して新連載の話も進めていた。紳士服屋や家具屋が、閉店セールをしながら秒で新装開店セールの準備を始めている感じだ。


誰も止めてくれないので、100回以上もひきこもりを全肯定するだけのコラムを書いてきたが、「美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる」という諺に賛同しているのが基本的にブスしかいないように「ひきこもり肯定」を肯定していたのはひきこもりだけだったんじゃないかと思う。


ピクツブでも、テレビもねえ、ラジオもねえ、そもそも住人が俺しかいねえ、という幾三ニキも真顔になるような過疎ジャンルの絵を描くより、今旬ジャンルの絵を描いた方が多くの人に見られるし、いいねも安易にもらえるのだ。


それと同じように、コラムも最初から多くの人間が関心を持っているテーマを選んだ方が良いに決まっている。


多くの人間が興味を持っているものと言ったらエロぐらいしか思いつかないが、そう言うと「エロに興味がない人だっているんですよ、それにもかかわらず『エロが嫌いな人間などいない』というクソでか主語で平然と下ネタを言ったり、性的なものを不特定多数の目に触れるところに置いている日本はどうかしている、これが欧米なら……」という話になってしまい「各方面に対する配慮が足りませんでした」という、誰に謝っているのかすらわからない漠然とした謝罪文と共に、初回で最終回という事態になりかねない。


この「初回で燃えて終わる」という即落ち2コマ展開は、このコンプラ社会におけるWEB連載では決して珍しいことではない。

よって、最初から燃えることがわかっている新聞紙テーマを選ばない、というのも大事なのだ。


そんなわけで、テーマを決めるため、私と担当二人とで緊急オンライン会議が開かれることになった。

しかし、集まった全員が「誰かがパラシュートを用意するだろう」という死亡事故が起こる現場にありがちな、「俺以外がなんとかするマインド」だったため、特に妙案は出ず、辛うじて出たのが、大多数の人間が興味を持っているのは金と他人の不幸という、コラムのテーマというより人間が滅びた方がいい理由のみであった。


これはもう一度話し合いが必要なのではないかと思ったのだが、次に担当から送られてきたのは「締め切り日のお知らせ」であった。

どうやら担当的にはあれで「決まった」ということらしい。


つまりテーマは「他人の不幸」で、初回は作家に惨殺された編集者の話にする、ということになるのかと思ったが、意外にもテーマは「金」の方向らしい。


確かに、編集者が作家に惨殺されるのは不幸ではなく、ただの必然だ。


金もエロ同様、興味のあるなしに個人差がある分野なのだが、個人の興味に関わらず世の中の方がどんどん「金に興味がない奴は死ぬ世界」になってきているのだ。


意識が高い風の人間にだけは見える、そして本当に意識が高い人間には見えないことでおなじみの、ろくろを回しがちな生き物が盛んに「マネーリテラシー」という言葉、もしくは鳴き声を発するように、金に対する意識や知識の差で貯蓄額が大きく変わるようになったのだ。

逆に意識と知識が低いせいで収入は多いのに、手元には何も残ってないというタイプもいるのである。


そして知っての通り、金は生きていくために必須のものだ。

金に興味がない、というのは「呼吸に興味がない」と言っているのと同じなのである。


つまり、好むと好まざるにかかわらず、貨幣を用いている人間が嫌でも興味を持たなければいけないものとして、「金」というテーマは最大手と言っていいぐらいメジャーなジャンルである。


しかしメジャーなジャンルにも欠点がある。

メジャーということは「みんなやっている」ということだ。


最近人気のジャンルといえば、何はなくとも異世界転生だが、あまりにも人気で、誰もが悪役令嬢に転生した結果、そんじょそこらの悪役令嬢では悪役令嬢の群れに埋もれてしまい、目立たなくなってしまったのである。


つまり今日び悪役令嬢を描くというのは、街に出たら10人中7人の女がしている埋没ファッションで合コンに参加するようなものであり、よほど素材と腕に自信ネキでなければ、LINE交換どころか名前を覚えてもらうことすら難しいだろう。


しかし悪役令嬢はまだ新しい文化であり、まだやり尽くされてはないし、多少稚拙でも、カマトトぶった正規ヒロインと、それにコロッと騙される馬鹿野郎が地獄に落ちれば面白いという勝ち筋は、既に確立されている。


それに対し、金というジャンルは、もはや貨幣というものが生まれた瞬間からずっと最大手であり、ありとあらゆる金の話が語り尽くされ、現在進行形で私より遥かに金に詳しい人が金について語っているという状態である。


そんなジャンルに対して金に詳しくない人間が参戦するというのは、脱サラして博多にしょうゆラーメンで挑むぐらいの蛮勇な気がしてきた。


流行りやメジャーをやるというのも重要だが、素材と腕に自信がない奴は「クソまずいけどここしかないのでここで食うしかない」という不毛の地唯一の飲食店を目指した方が賢明な場合もある。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosai29

「寝そべり錬金術」は毎週【金】曜日12時ごろ更新!
↓カレー沢薫の前作「ひきこもり処世術」最終回

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