第49回/この金はどこから来たのか 引き落としは何なのか 小遣いはどこへ行くのか

文字数 2,339文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

金がない奴は、「金に対する関心」が薄いのかもしれない。


そう言うと多くの貧乏人が、「そんなことはない、四六時中金のことを考えているし常に金を欲している」と答えるだろう。私もその一人だ。


しかし「金が好き」なのと「金に関心がある」は全く別のような気がしてきた。


これは「人間」に対しても同じことが言える。

相手の気持ちに関心がなく理解しようともせず、ただ「欲しい」という欲求だけを持った女好きのヤリモクのところに、果たして女が寄ってくるだろうか。

仮に寄ってきて手に入れたとしても、その手のタイプは相手を雑に扱うため、結局逃げられてしまうのだ。


金も雑に扱うから、「いつの間にかない」という怪現象が毎月起きる。

だが金に関心がないので「いなくなったから新しい金が欲しい」としか思わず、「何故金は出ていってしまったのか」を考えないため、永遠に金に逃げられ続ける人生を送るのだ。


つまり「金を得た」「金がなくなった」という「結果」にしか興味がなく、「どうしたら金を多く得られるのか」や「金がなくならないようにするにはどうしたらよいか」という、「内容」に関心が薄いのではないだろうか。


このタイプは収入でも支出でも「合計」にしか興味がなく、「明細」を見ない傾向があるのではないかと思う。


明細を見たところで、合計は変わらないのだから意味がないと思うかもしれないが、合計しか見ない人間は「合計5億8千円です」と言われたら、何の疑問も抱かずに支払っているということである。


金に対し「気づく」「疑問を持つ」というのは、非常に大事なことである。

明細を見れば、その中に「お前の体臭我慢料」など不明瞭な項目があることに気づいたりするものだ。

そして「これは支払う必要があるものなのか」と疑問を持って問い合わせたことにより、支払わなくてよくなったということもある。


病院都合での個室入院代や、アパートの入居や退去にかかる謎の費用など、気づいて指摘したら支払わなくてよくなったという例はよく聞く。

逆にいえば、支払いの内容に関心がなく気づかない奴は、気づかないうちに支払わなくてもいい金を支払っているかもしれない、ということである。


だが、金に関心がない人間は、気づく力も疑問を持つ力も弱いのである。

私はミステリーを読む時、トリックにはあまり関心がなく、何故犯人はこいつをブチ殺したかったのか、という動機の方ばかりに注目している。


よって本格ミステリと銘打たれた作品で、「デスノート」などのトリックが登場してきてもあまり疑問を持たないし、スラムダンクを見てもバスケではなくキャラクターの方に関心があるため、作中でキャラがボールを持ったまま16歩ぐらい歩いても気づかない可能性が高い。


仮に気づいたとしてもバスケに対して興味がないため、「そういうこともあるのかもしれない」とスルーしてしまうような気がする。

逆にバスケに関心があれば、「あのシーンはどういうことだ」と納得いくまで詰めるだろうし、そうすることにより修正をしてもらえるかもしれない。


それと同じように、金に関心がなければ支払い明細の不自然な点に気づけないし、気づいたとしても「よくわからないが支払わなければいけないものなのだろう」と納得して、諾々と支払ってしまいがちなのだ。


また金がない人間は金に対し「面倒くさい」という気持ちを持っている場合が多く、「金に時間をかける」ことができず、逆に面倒を回避できるなら金を払ってもいいとさえ思っている。


よって支払い明細に「お前に対する生理的嫌悪料:500円」という謎の項目を発見したとしても、これについて追及し、自分の生理的嫌悪感について30分問答した末に500円値切りに成功するより、さっさと500円払う方を選んでしまうのである。


多分、明細を隅々までチェックして「これはなんだ?」と質問してくるのは、業者にとって「嫌な客」である。

しかし、支払いに関しては「良い客」よりも「嫌な客」と思われているぐらいが良いのだ。


業者にとって良い客というのは、明細をろくに見ず言い値を支払ってくれる「都合の良い客」、つまり「カモ」である。


カモと見なされれば不要な商品を勧められたり、不要なオプションを全部乗せした見積をご用意されるようになり、余計不要な支出をするようになってしまう。


逆に、明細や契約書にちゃんと目を通して逐一ツッコんでくるような嫌な客には、無駄な営業をしてはこないものである。


営業の早口説明を赤べこのように聞き、「質問ありますか?」の問いに、一瞬考えたフリをして「ありません」と答えているようでは舐められる。

だからといって、「定款って何て読むんですか?」などと聞いたら余計舐められる恐れはあるが、たとえ全く興味がなくてもチョロ客と思われないために、何かしら疑問を投げかけた方がいいような気がする。


保険の営業や携帯ショップの窓口に好かれたところで、彼らは一緒にアニメイトに行ってくれるわけではない。

気になるところは遠慮なく突っ込んで「面倒な客」になっておくべきである。


ただし執拗にLINEを聞いてくる真の意味で面倒な客になれ、という意味ではない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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