第25回 クイズです。2本で1本なーんだ?(ヒント:保険適用外の場合)

文字数 2,371文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

前回医療費の話をした。


老でも高所得者は医療費負担が1割から2割になったりと、不穏な空気が立ち込めてはいるものの日本の医療費制度は世界でも恵まれている部類である。


しかし、保険が適用できるのはあくまで保険内診療であり、それ以外の自由診療は全額負担となりちょっと笑ってしまうレベルの高額になる場合がある。


何が保険内で何がフリーなのか厳密にはわからないが、一般的にまだ未認可の治療をするとき、そして必ずしも必要ではない治療を行う時自由診療になるのではないかと思われる。


必ずしも必要ではない治療とは何か、というと機能的には問題ないがQOLを上げるために見た目を整えるような治療などのことを指す。


わかりやすい例で言うと、真正包茎は保険内で治療できるが、仮性包茎は自由診療である。

これは真正だと使用に不具合があるが、仮性であれば特に問題なくそのままお使いいただけるからである。


特殊や重大でない病気やけがの治療であれば、「保険外ですがギプスをサイコガン仕様にしますか?」など自由診療を勧められるケースはあまりないし、勧められたとしても保険内で済ませる人の方が多いだろう。


しかし、わりとカジュアルに自由診療が選択肢に出てくる上に、悩んだ末に自由診療を選ばざるをえなくなりがちなのが「歯科治療」である。


去年、私は歯をインプラント治療したのだが、治療費は総額で「50万円」以上かかった。

ちなみにこれはインプラントを「1本」入れるのにかかった金額だ、もしまたインプラントを入れることになったらその都度50万円かかる。


特別ボられたわけでも、素材を金にして「F」という刻印を入れたわけでもない。

もしそうだとしたら次に入れるのは「U」だ、残りの二文字はご想像にお任せする。


インプラント治療は多少病院によって差はあるものの、数十万かかるのが普通なのだ。


どういう時にインプラント治療が必要かというと、歯の根元が割れるなどして抜歯するしかなくなった時などだ。

この、歯の根元が割れるというのは年を取ると誰にでも起こりうるもので、つまりいつインプラント治療を迫られるかわからない、ということである。



しかし、歯科治療は必要な治療のはずである。その治療方法が高価なインプラントしかないというのはおかしいと思うだろう。

その通りであり、抜歯に対しては「入れ歯」というもっとリーズナブルな保険内治療が存在する。

年齢にもよるだろうが「保険内でやるなら入れ歯ですね」と言われて、すぐに入れ歯を即決できる人間は少数派ではないだろうか。

もちろん、インプラントor入れ歯orDieではなく、場合によっては「ブリッジ」という保険内治療も可能である。

ブリッジというのは、酔っぱらって歩けなくなった奴の両脇を二人がかりで支えるような治療法であり、抜歯後、両サイドのまだ健康な歯に支えてもらう形で歯を入れる方法だ。


しかし、いくら二人がかりでも永遠に自立しない酔っ払いを支え続けるのはキツイものだ。

ブリッジは健康な歯に負担をかける治療法であり、一時的に入れ歯は回避できるが他の歯の寿命を縮めてしまう恐れがあるので、結局入れ歯へのカウントダウンを速める結果になりかねないのだ。

私もできるだけ保険内で治療をしてきたのだが、ブリッジかけすぎて明石海峡大橋レベルになってしまった。

もはや歯というより「ジェンガ」であり、いつ倒壊するかわからないので他の歯への負担が少ないインプラントを選択せざるを得なくなった。

こう書くとインプラントも健康のために必要な治療なので保険適用してくれてもいいような気もするが、入れ歯でも生きていく上で問題ないのは事実であり、もっと言えば抜歯した後何か入れなければ生きていけないというわけではない。

ただ、今後の生活と他の歯への影響を考えたら入れた方がいいというだけなので、歯が抜けたあと「無」で過ごす無頼派もたまに存在する。


しかし、個人的にはやはりインプラント治療も保険適用にすべきではないかと思う。

これは私が今後10本くらいインプラントの必要が出てくるからではない。


確かに入れ歯でも食事は可能であり、栄養を摂取することはできる。しかし入れ歯とインプラントでは「嚙む力」に大きな違いがあるらしい。


これはただ固いものが食えなくなるだけではない結果をもたらす。

近年、口内の健康が他の部位にも影響を及ぼす説がかなり有力になっているのだ。

噛めなければその分脳に刺激がいかず認知症リスクが高まり、嚥下力が落ちることにより誤嚥などが起こるため、歯が悪いことが老をダイレクトに殺す結果になりかねないのである。


つまり、インプラントを含む歯科治療は高齢化社会にとって必要な病気予防になるため、もう少し手を出しやすくした方が良いのではないかと思う。


しかし、老になってそのような治療が必要なのはわかるが、私が若くして入れ歯かインプラントかを迫られたのは完全に自らの不摂生が原因である。

そんな奴に、時間も手間もかかる高額なインプラント治療を保険でガンガンやられても困る、というのもわかる。


インプラント治療は口内健康の維持に有効であり他の病気を防ぐ。

しかし、それ以前に「歯磨き」という最大の病気予防があることを忘れてはならない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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