第59回/四十路が集まれば、息をするように体調不良の話

文字数 2,317文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。


久しぶりに地元の友人と会ってきた。


そう書くと「友人がいるじゃないか」と怒られることがあるのでそれは申し訳ないと思う。

しかし、冷静に考えてみると「友達がいて怒られる」とはどういう状況なのか、コンビニで飯を買っているだけで怒られる消防署員や、子供に挨拶しただけで通報される中年よりも扱いが酷い。


確かに平素「友達がいない」と公言しながら、「明らかにその量は一人じゃ食わねえだろう」というメシ写真をXしてる人間は多い。


しかし、そういう人間も詐称をしているつもりはなく、「友達いない」というのは「0カロリー表示」みたいなものだと思ってほしい。

100グラムあたり5キロカロリー以下なら0カロリーと表示しても良いのと同じように、友人の数が仕事ができない反社の片手の指よりも少なかった場合、「いない」と言ってしまいがちなのである。

また友人いないと吹聴する人間はよほどの孤高か自己肯定感が低いため「自分を友人と思ってくれているか確信がもてない相手」をカウントしないので結果として0になってしまうのだ。


逆に言えば、安易に「友達がいない」などと断言するから、それを聞いた相手が「俺は友達じゃないか」と離れてしまうこともあるのだ。友人がいないという奴ほど、他人をなかなか友人だと認めようとしないのである。


突然自傷行為のような独白から始まってしまったが、自傷などせずとも老の体は自然に傷ついていくものである。

私の同級生となれば全員四十路である集まれば息をするように体調不良の話が始まるものだ。


この現象は本当に老化で不具合が増えたせいもあるが、同年代といえども立場には差がある。現に私以外は全員厚生年金だ。

そんな中、全員の共通の話題となるのが老いと病気なのである。


だが、その中に1人でも筋トレに目覚めた奴がいると「この年になったらジムぐらい通っておかないと」という意識マウント地獄が始まってしまうので、全員このまま運動不足のままでいてほしい。


また老の病気話というのは不毛に見えて実はかなり有益なのである。

年をとるとみんな大なり小なり体に不具合を抱えるものだが、全員が同じ部位を破壊されているわけではない。

ケンタッキーの肉を組み立てることで鶏一匹になるように、複数の老の不良部位を集めることで全身が完成するのである。


よって、同年代の話を聞くことにより「自分にも近々同じ不具合が起きるかもしれない」と対策したり、またはひたすら覚悟のみを決めることができる。


私は、座りっぱなしの割にはまだ痔らしき痔を患った経験がないのだが、集まったメンバーの中に、いぼ痔手術経験者、肛門に8つの傷を持つ伝説の老兵の如き切れ痔経験者がいたので、色々と興味深い話をきくことができた。


どんな病気でもそうだが、痔も早く病院に行くことが肝要であり、手術するにも初期なら日帰りで済むが、進行していると入院の必要が出たり予後も厳しいという。


誰もが心にナイフを忍ばせているように、肛門内にもイボが潜んでいる場合が多く、それが何かの拍子に出てきてしまった時、多くの者がそいつと向き合う勇気が出ずに「押し戻す」という現実逃避をしてしまいがちだが、文字通り押し問答を続けている内に取り返しがつかなくなるので、何か出てるなと思ったら早急に受診した方がいいと言う。


そう言われて確認してみると、確かに肛門周辺がブヨついているような気がする。

ちなみにその場ですぐにアナルチェックしたわけではなく、家に帰ってからだ。


しかし友人が言う通りに押して肛門に帰っていくかというと、完全に帰宅拒否であり痛みもないので、これがイボなのか、ただブヨっているだけなのかわからない。


鏡などで確認した方がいいのだろうが、さっそく「見るのが怖いので見たくない」という現実逃避が始まってしまっている。己の肛門に向き合うというのは心と向き合うよりも難しいのかもしれない。

思えば、体の中で肛門は一番対面しない場所であり、前回会ったのがいつだったか思い出せない。近しい存在ほど、一度疎遠になったら顔を合わせづらくなるものだ。

そして手遅れになってから「もっと早く会いに行っておけばよかった」と思うのだろう。


私もそういう意地っ張りな末っ子気質なので、結局「会おうと思えばいつでも会えるし」と言って顔を見せずに帰ってきてしまった。


肛門科というのは、そんな素直になれない俺たちが集う場所なのだろう。


ちなみに私はまだマンモグラフィー未体験者だが、体験者によると乳が張っていない時期に行けば痛みは巷で言うほどではなく、それより乳がペラペラに押しつぶされるビジュアルに一見の価値があるらしいので、マンモに対する抵抗感はかなりなくなった。


そして私も去年、造影剤を入れたCTを撮ったので「造影剤を入れると股間がじんわり暖かくなり漏らしたと錯覚するが漏れてないので落ち着け」という有益情報を共有することができた。

病気に関しては病院へ行くのが一番という結論は変わらない。


しかしネット記事の「早めに病院に行きましょう」と、同年代の体験者による「病院へ行け」は重みが違うのである




カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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