第37回/「○○○税の落とし穴」って多過ぎない? ダンジョン?
文字数 2,196文字
稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。
税理士から督促を受け、急いで適当な資料を送ったのだが、その後税理士から連絡が来た。
「固定資産税」「自動車税」「自動車保険」の領収が足りないとのことだ。
思ったより少なくて良かったが、そのすべてが「税金」と「保険」である。
私を1年苦しめた二大巨頭が最後まで両足首を掴んでくるという、霊がしつこすぎるホラー映画のラストのようだ。
すでに払い終わったものなので「嫌な事件」の記録である領収書を送るだけなのだが、よく考えてみれば固定資産税や自動車税というのも謎である。
固定資産税は、家や土地などにかかる税金、自動車税は車にかかる税金である。
「市県民税」という、その場にいるだけで払わなければいけない税金があるが、不動産や車も例外ではないということである。
我々は存在しているだけで罪であり、払わなければ罰金が多数あるのだ。
しかし、自分の物である家や車に何故税金がかかるのか。
家などはその場にあるだけで道路など公共の恩恵を受けているはずだから、それに対する税を納めるべきである、という理屈らしい。
もはや「目が合ったから殴る」レベルの話になってきているが、「目が合わないようにずっと自分のつま先を見ている」ができない分、さらに性質が悪い。
自動車税は当初道路建設費をつくることが目的があり、道路を走る車がそれを負担するという名目だったらしいのだが、全国的に道路がほぼ完成した今でもなくならないし、その上今年しれっと値上がりしていた。
もしかしたら、あの年度末に良く見る謎の道路掘り返し作業は、俺たちの自動車税が使われているのかもしれない。
しかし、固定資産税は定額ではなく土地や建物の価値によって変動する。
土地や建物がでかくて豪華なほど公共の恩恵を受けられているか、というとそんなこともないだろう。
多く取るなら、その分豪邸前の道路はレッドカーペットにするなどの差をつけるべきではないか。
自動車税も基本的にでかい車になるほど高くなり、また環境に配慮した車の税金は安くなる傾向がある。
つまり自動車にかかる税金の中には、「環境破壊料」が含まれているのかもしれない。
自然は地球さんのものなのに何故国が回収してくるのか謎である。
しかし、空気を汚すことに税がかかるなら、口臭税、ワキガ税、風呂に入ってない税も加算されるべきだし、「人が話している時に全然関係ない自分の話をしようとする」奴に加算される「その場の空気悪くさせ税」も必要なはずである。
だが、これらの税は全て自分の首を締めそうな気がする。これ以上自分の存在に対する罰金を払いたくない。
家というのは、取得してから年々価値が下がるため、基本的には固定資産税も年々下がるものである。
しかし「ゼロ」になることは多分ない。例え過去二桁の謎の遺体が発見され、庭に不発弾が埋まっているような土地家屋でも、おそらく毎年固定資産税がかかっている。
よって固定資産税は、不動産を取得する時の落とし穴と言われている。
「持ち家ならローンを支払い終わればあとは何もかからない」というのが営業の常套句だが、固定資産税は永遠に発生するし、マンションの場合は、管理費修繕費などの積立も永遠に払わなければいけないし、ローンの支払い中はローンにこれらが上乗せという形になる。
特に固定資産税は年々安くなると言っても、年間10万ぐらい払わなければいけなかったりするので、その存在をすっかり忘れていると困ったことになる。
ちなみに、固定資産税は住宅ローン控除で返ってくるお金でペイできますから大丈夫です、と購入時に説明されたが、固定資産税がフォーエバーなのに対し、住宅ローン控除は10年限定である。
このように、家というのは何十年、下手をすれば一生住むかもしれない場所である。
太陽光の10年高額買取もそうだが、家に関して「10年間お得」という文言は「11年目に困る」という意味だと思って欲しい。
最長35年ローンに対する負担が、10年という半分にも満たない優遇でカバーできるはずがないというのは引き算ができればわかるはずなのだが、人間は家を買う時、知能が幼稚園ほし組になってしまい、両手以上の計算ができなくなってしまいがちである。
もし夫婦で自宅の購入を考える際は、二人の両手両足を使って計算してみてほしい、この時のために二人で生きることを選択したと言っても過言ではない。
1人でも生きていける世の中といっても、やはり1人では最大20までしか計算できない。1人で生きている世の中であえて2人になった意味をここで発揮しないでどうする。
営業の手を借りても良いが、あいつらは計算されては困るので、その場で全指を詰め始めるかもしれない。あいつらはそのぐらいやる。
あと、スマホには「電卓」という機能があるので使ってみてもよいかもしれない。あれは確か指一本でも使えたはずである。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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