第34回/確定申告! 確定申告!! 確定申告!!!

文字数 2,475文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

本日(※2月頭)Twitter上ではアカウントの凍結祭があったようだが、これは1月も終わって「確定申告」という反社会的ワードをつぶやく人間が増えたからと思われる。


こんな物騒な言葉を伏字もなくつぶやいたら、危険因子として当局にマークされるのは当然である。


確定申告は、学校を卒業してから会社員以外したことがないという、国が推奨する生き方をされている方にはあまり縁がないし、正直意味もよくわからない、という人もいるかもしれない。

しかし国としては、会社員の皆様に対し確定申告なる邪悪な言葉とは定年まで縁のない人生を送ってほしいと思っているはずなので、無理に知る必要はない、そのままの君でいてくれれば良い。


例外として会社員でも、住宅を購入した際、特別控除を受けるのに初年度だけ確定申告が必要だった気がする。

他にも医療費が10万円を超えた時、そして忘れてはならないのが「副業」などで、給与以外の所得があった時である。

お上は、控除を申告し忘れ税金を多めに払ってしまうことに関してはかなり寛大だが、所得を申告せずに税を脱することに関しては敏感である。

確か給与以外で20万円以上の所得があれば、申告の必要があるはずだ。



ここでよく言われるのは「副業の収入を確定申告すると副業が会社にバレる」という話だ。

今は大手企業でも副業を許可しているところがあるので、この点で悩む人は少なくなっているのかもしれない。

しかし「さらに働いてもいいよ、許してつかわす」と言われても、そもそも我々はそんなに働きたいわけではないので、根本的に「違う、そうじゃない」感がある。

定年を伸ばしたり、なぜ国は国民が働きたくてたまらないこと前提で話を勧めてくるのか。

これはチャーハンに対し「ピラフさんのためを思って言っているんだよ」と言い続けているようなもので、永遠に話がかみ合わない。


実際、確定申告で副業がバレるかというと、申告の仕方さえ間違えなければ多分バレないような気がする。

確定申告の際「給与以外の所得に対する住民税は会社ではなく個別で支払う」という欄にチェックしておかないと、給与だけではありえない額の税額が会社に行き、そこから「給与以外の所得がある」ということがわかり、副業がバレるケースがなくはない、ということだ。

よって副業をしていることはバレても「ショーパブで肉布団カケルという源氏名で活躍している」など、副業の詳細までもが会社に通知されるということはない。

ただ肉布団として大活躍しすぎて副業の所得が莫大になると、「給与が税金でマイナスになる」という怪現象が起き、給与担当者に甚大なる迷惑をかけることになりかねないので、たとえ副業OKの会社でも、税金は分けておいた方が何かと安全である。


実は、私自身が「副業の税金が会社に行っちゃった奴」なのだ。

自分で確定申告をしていた時はちゃんと分けておいたのだが、税理士に依頼するようになった際、そこらへんが上手く伝達できてなかったようで、明らかに不自然な額の住民税が会社に行ってしまったのだ。


しかし、その時私が会社の給与に関わっていたため「税務署からの通知を受け取ったのが自分」というミラクルが起きた上に、その時すでに退職が決まっており、さらに副業も普通に会社にバレているという、逆にこれ以上失うものがあるなら教えて欲しい状態だったため、大事には至らなかった。


だが、もしそれがきっかけで会社に副業がバレていたら、税務処理を楽にするため契約した税理士と、いきなり法廷で争うことになっていたかもしれない。


現在は本業を失うことにより、副業がバレることもなく確定申告も税理士に任せているのだが、任せると言っても資料を用意するのはこちらである。特に私は小さい仕事が多く、口座も無駄に多いため、そのまま送っても何もわからない可能性が高いのでそれなりにとりまとめて送る必要があり、それが面倒なのだ。


私だけではなく、多くのフリーランスが確定申告に関し悪感情を抱いているのだが、フリーランスが会社員より唯一優遇されていると言えるのが、「節税の余地が多い」という点である。

そして、確定申告はスーパーのビニール袋にニンジン詰め放題タイムのように「ギリギリまで経費を乗せるタイム」なのだから、もっと嬉々として、少なくともはりきってやるべきである。

それを何故ギリギリまで放置し、「もうこれでいい!」と女体に見えるエロニンジンのみを袋に入れてレジに叩きつけるような適当な真似をしてしまうのか。


おそらくフリーランスの中には「金を払ってでも事務仕事をしたくない」というタイプが一定数いるため、「ちゃんとやれば戻ってくる金が多くなる」と言われてもあまり刺さらないせいではないかと思われる。


ただ、確定申告が苦ではない、むしろ好きという人間もいるはずである。

ただ「確定申告嫌すぎる」という声がでかすぎて聞こえない、そして嫌派の声がでかすぎるがゆえに自らをマイノリティと思い込み、確定申告が好きなどと口にしたら「好物は赤子の脳みそ」と言ったがごとく引かれそうで、口にできないという人もいるのかもしれない。


何事も否定意見の方が声が大きく目立つものである。おそらく確定申告が好きというのはそこまで珍しくない。


それに確定申告を面倒くさがり、支払わなくて良い税金を払っている奴より、どう考えてもちゃんと申告して節税している方が偉い。

むしろ、何故偉くない方が堂々と「確定申告やりたくない」とでかい声で言っているのかが不思議なぐらいなのである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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