第84回/できたためしないが意外と必要な「家計簿」

文字数 2,359文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

先日、いわゆるフィナンシャルプランナー的な仕事をしているプロと話す機会があった。


別の仕事の話なので、詳しくは割愛するが、もともと金に興味がない奴の方が少数派であり、さらに今まで馴染みの薄かった「投資」「資産運用」などの言葉をしきりに聞くようになったため、こういったプロに相談してみたいという人は、ますます増えていることだろう。


 わざわざ相談やセミナーに行かなくても、プロが監修したマネー本は、全部買ったら破産しそうなほど出ているし、今ではYouTubeで無料講座を開いていたりもする。


それらの本を読んだり動画を見たことがある人もいると思うが、結局「金は使うとなくなるので、使わなければ貯まる」のような、当たり前のことを言っているだけで、特に参考にならなかったという経験をした人も多いと思う。


だが、それは当たり前のことであり、金や人生設計というのは人によって千差万別なため、どういう属性の奴が見ているかわからない本や動画だと「あんた200年以内に死ぬわよ」等の誰にでも当てはまる一般論を言うしかなくなってしまうのだ。


よって、自分に合ったアドバイスを求めに、プランナーに個別相談をしに行ったりするのである。


しかし、ひきこもりが服を買うには、まず服を買いに行くための服が必要であり、ラジオ体操をするにも、ラジオ体操前の準備体操が必要なのだ。

それをしなければ、逮捕や骨折など、さらに不自由なことになる。


同じように、金の素人がプロに話を聞きに行こうと思ったら、そのための金の勉強と準備が必要なのだ。


全くなんの知識もなく「プロの言う通りにすれば間違いない」という心持ちで行くと、そのプロが闇属性だった場合、いとも容易く騙されることになる。


先日も、我が村の老が資産形成セミナーに参加して、7000万ほど騙しとられるという事件が起こっていたが、まず騙しとられる7000万を所持していたのが偉い。

その老も「これに投資すれば儲かる」という自称プロの言葉を鵜呑みし、7000万を振込み、架空の利益が出ているのを見せられ、出金を要求したところ「出金手数料として2800万円」を要求され、詐欺に気づいたそうだ。


さすがに最後は、相手が老だと思って調子に乗りすぎだが、調子ライドしなければもっと引っ張られていた可能性は高い。


相手も詐欺のプロなので素人が見破るのは困難なのかもしれないが、それでも金の知識が多少でもあれば騙される確率は減るだろう。


詐欺師じゃなかったとしても、相手は親切心やボランティアで金儲けの話を教えているわけではなく、それを教えることにより金を儲けようとしている人間なのだから、何らか「思惑」があっても不思議ではないのだ。


もちろん、儲け話ではなく、普通の家計相談に応じるフィナンシャルプランナーも多いと思う。

しかし、そういうプロに対峙するにも、丸腰で行っては意味がない。


一言で家計と言っても、人数や構成、年齢や年収などによって話は大きく変わって来る。

まず、何人家族なのか、その家族は自分にしか見えないタイプの家族かなど、まずデータが必要なのだ。

いくらプロでも、ノーデータの相手に詳細なアドバイスなどできるわけがなく。そういう相手には「1円を10枚集めると2センチになります」など、YouTubeでも聞ける一般論しか言えないのである。

よって、プロに相談したいなら、まず自分のデータを準備していかなければ話にならないのだ。


そして家計相談であれば、家族構成やスペックだけではなく、月々の収入や支出のデータがないと、具体的なアドバイスはできない。


つまり「家計簿」の必要が出て来るのだ。


しかし、事務作業が苦手なフリーランスほど、確定申告という超絶事務作業に挑まされているという矛盾があるように、金銭管理が苦手で到底家計簿などつけられない人間ほど、プロのアドバイスを求めていたりするのだ。


私もプロと対峙した時、自分が把握している家計データが「人数」ぐらいしかなかったため、全ての質問が、最終的に「人による」という、何にでも使える一般論に帰結してしまっていた。


プロのくせに誰でも言えることを言いやがってと思うかもしれないが、そういうプロはまともであり、むしろ詳細を何も知らない相手に「これを買えば儲かる」や「狐がついている」など具体的なことを断言してくる奴の方がヤバいのだ。


つまり、土台がコンクリなのか、こんにゃくなのか、不明なところに家を建てられないのと同じように、現状が把握できていなければプランニングも不可能なのである。


何度も言うが、こちらは金にだらしないからプロにアドバイスして欲しいのだ、しかし何せだらしないので、アドバイスされるための家計簿が用意できず、永遠に「支出より収入を多くすれば貯金が増える」等の一般論しか言われないというスパイラルに陥りがちなのである。


ちなみに、自己破産の免責を受けるにも、家計簿をつける必要があるらしい。

この話を聞くたびに、自己破産まで行くような人間がよく家計簿をつけられたなと思う。


だがもしかしたら、家計簿をつけるのが無理過ぎて、自己破産できないという、一本筋の通った金にだらしない奴も結構いるのかもしれない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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