第6回 ネットは詐欺のデンジャー・ゾーン
文字数 2,397文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

最近日本で大変な事件があったせいか、再びカルト教団の問題が取り沙汰されている。
しかしカルト教団と言われても、多くの人は自分には無関係だと思っているだろう。
しかし、違法薬物だって、トー横で顔面にタトゥーが入った黒タンクトップの人が勧めてくるとは限らないのである。
そういう人はこちらに「警戒してください」と全身で教えてくれているので、むしろ「良い人」まである。
だが現実は、近所のママ友が「よかったらこれ」と昨日焼いたパウンドケーキをお裾分けするがごとく、違法薬物を渡してくるのである。
カルト教団の人も「どうもカルト教団です」とギャグ漫画みたいな登場の仕方はしてこない。
まずは「ヨガ教室」など、宗教であることすら気づかせずに近づいてくるはずである。
私の某青年誌の担当は、キャバ嬢に店外デートに誘われ喜んで行ったところ「今幸せか?」と問われ、教祖様の素晴らしさを説かれたのちに、どこからともなく現れた複数人の男に囲まれたという。
オタクに「イベントに一緒に行こう」と言われてクラブイベントに連れて行かれたら仰天してしまうように、キャバ嬢と宗教はなかなか結びつけにくいし、デートの誘いも同伴出勤だと思えば不自然ではない。
これを瞬時に宗教勧誘と見破ってついて行かないというのは、真名看破EXスキル持ちでないと厳しいだろう。
つまり、並の警戒心の人間なら誰でも、囲みの宗教勧誘を受ける可能性があるということだ。
ちなみに、その担当は英会話営業電話をかけてきた女子と外で会って複数人の男に囲まれ、リゾート優待券営業の女子とも居酒屋に行って複数人の男に囲まれたことがあるらしいので、もう少し警戒心を持った方が良いと思う。
しかし、これだけ何回も複数の男に囲まれながら一度も、入信や入会、物を買ったことはないそうだ。
担当曰く、判子さえ押さなければ、若くて綺麗な女子が小一時間タダで雑談に付き合ってくれるので、断れる自信のある人ならむしろおススメだそうだ。
警戒心マイナスを鋼の心EXでカバーするという離れ業だが、これは日頃からミナミのエンペラーやホワイトドラゴンに囲まれて仕事をしているから、並の男に囲まれたぐらいではびくともしないだけで、常人には全くおススメできないライフハックである。
ちなみにカルト教団に入ってしまうと、やはり財産は完全に抑えられてしまうらしい。
金を貯めたいなら「カルト教団に入らない」というのも重要である。
それは極端な話だが、商売だって誰かが持っている財を自分のところに持ってこさせる行為である。
つまり資本主義というのは金の奪い合いなのだ。
合法的に奪う側に回れるなら一番いいが、凡人はまず奪われる側にならないように警戒するところから始めなければならない。
奪う側に回ろうとする人間が意外と多く、振り込め詐欺の被害額は毎年数百億に及ぶそうだ。
まず老が奪われる金を数百億抱え込んでいることに隔世の感を感じるが、振り込め詐欺も「自分は引っかからない」と思っている老ほど引っ掛かっているという。
つまり「自分は引っかかるかもしれない」と思うことが、まず最大の予防なのだ。
そして振り込め詐欺に気づける老にはある共通点がある。
振り込め詐欺を見破った老の多くは、「振り込め詐欺の存在を知っていた」のだ。
生きている人間の多くは呼吸をしている、みたいな話をしているように聞こえるかもしれないが、これは意外と重要なことである。
我々が全裸で外に出ないのは、全裸で外に出るとお縄になるという法律を知っているからであり、知らなければ出てしまう可能性は十分にある。
振り込め詐欺という概念が頭になければ、それが詐欺だと気づくことすら難しいのである。
つまり、詐欺に引っかからないためには「こういう詐欺がある」という詐欺の種類に詳しくなっておく必要がある。
このコラムを読んでいる奴は相当のインターネットクソ野郎だとお見受けするが、ネット上にも多くの詐欺がある。
だが、関口宏に「それではネットを利用した詐欺の手口を三つお答えください、走って!」と言われてすぐに答えられるだろうか。
まずインターネットクソ野郎なので、解答できる速度が出せないという問題があるが、改めて聞かれるとすぐには出てこないのではないだろうか。
フィッシング詐欺、ワンクリック詐欺、偽警告、マルウェア、架空請求など、ネットを利用した詐欺はたくさんある。
ここで詳細を説明するのは控えるが、ネット詐欺には「エロ」を人質にしたものが多いということだけは覚えておこう。
架空のエロサイト登録料を払えという古典的なものもあれば、お前のPC内に児童ポルノを見つけたので通報されたくなければ金を払えというものもあるし、中にはエロ画面を開いた瞬間パソコンがロックされてしまい、解除してほしければ金を払えという、その技術力を他で活かしてほしかった詐欺もある。
なんでエロ詐欺が多いかというと、人はエロで脅されると弱いからである。
身に覚えがなくても気が動転してしまい「もしかしてあれかもしれない」と、痛くない腹を自ら腹パンして振り込んでしまうことがあるのだ。
ネット詐欺の対処法は「無視」しかない。
「エロで脅された時こそ一旦賢者モード」
これを覚えておくだけでも、詐欺被害に遭う可能性は多少減らせるはずである。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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