第69回/我々フリーランスに待ち受ける様々な罰

文字数 2,372文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

前回医療保険について確認したが、私の保険証書入れにはまだ「2枚」ほど証書が残っている。

やはり個人にかける保険としては、若干数が多いのではないだろうか。


むしろ重鎮でもないのにこれだけ保険をかけられている人間が10年以上一度も謎の事故や病気に遭っていない方が松本清張みを感じる保険金ミステリーだ。


ただ、残っている二つのうち一つは保険というより「個人年金」である。

個人年金とは、国の年金が当てにならないので、自分で自分の年金を積み立ておく金融商品である。


現在この「年金は当てにならない」は、銀行や証券会社や保険会社などが商品を勧める時の常套句になりつつある。

もともと国民が安心して老後を過ごすための制度だったはずなのだが、今ではすっかり国民の不安を煽る言葉になってしまっている。


しかし「年金は当てにならない」は、単に業者が商品を売りつけるための脅し文句というわけでもない。

何故なら国すらも「年金は当てにならない」と言って、iDeCoやNISAで老後資金を自分でご用意することをゴリ押してきている。

提供元が自信を持って「当てにするな」と言っているのだから、想像以上に当てにならないと思った方が良いだろう。


特にNISAは来年から破格のグレードアップをするようなので、もはや国も自分で老後資金を用意してほしさを隠す気がなくなってきている。


ただ「年金が当てにならない」が事実だったとしても、そう言ってくる奴の勧める商品を買えば安心というわけでもない。

不安は人間の判断力を鈍らせる。金融商品のみならず、人の不安を煽り、判断力を鈍らせてから何かを決めさせようとしてくるメダパニバッタみたいな人間の言うことには、気を付けた方が良い。


中には「今年はあと5週間しかない」など、単に人を焦らせることだけ言って特に何もせずに去っていく無害な妖怪みたいな奴もいるが、普通に「あいつ一体何がしたいんだ」とムカつかれているので、むやみに人を不安にさせるようなことは言わない方がいい。


ただ、先日テレビで「年金ほど利率がいいものは存在しない」という、国の回し者のようなことを言っている番組を見た。

確かに支払額に対して年金ほどリターンが大きいものはそうそうないのだろうが、それはあくまで現行の年金制度であり、今後どのような改悪がされるかは未知である。


それでも俺は年金を信じたいという場合は「国民年金基金」と言って、国民年金に上乗せして加入できる年金もある。

ただこれに入れるのは我々フリーランスなど国民年金勢だけだ。


つまりフリーランスどもは厚生年金がないので、自分で年金を上乗せしとけということだ。


やはりこの国で会社員でないことは罪であり、保健や年金の冷遇など様々な罰がご用意されている。特に今年はインボイス制度が始まってしまったりとフリーランスにとってドストエフった年となった。


そんなわけで私も個人年金に加入はしているのだが、年金と銘打ってはいるものの、現行の年金ほど利率があるわけもなく、ほとんど積立貯金と思った方が良いだろう。


最後に残った保険だが証書には「終身共済」とかかれており、これだけだともはや何の保険かすらわからないが、調べてみたところ、一生保障が続く生命保険のことだそうだ。


生命保険と言えば、一番事件が起きやすい保険である。ただし今年は我が県が誇る有名企業、某巨大モーターさんが自動車保険を利用したでかいヤマを起こしてくれたので、現実の保険の悪用は殺人事件などわかりやすい形で行われているわけではないとわかってよかった。


生命保険とは、災害や疾病などで死亡や日常生活が困難な障害が残ったり、重要介護が必要になるなど、とにかく穏やかじゃないことが起こった時のための保険だ。


もしもの時の保険なので支払われる額も多く、私の場合、災害や疾病など死亡理由にもよるが、2000万から2500万円が支払われるようである。


ただ保険料も安くはないので、このような保険は急にいなくなられては困る一家の大黒柱などにかけられるものなのではないか。私のようなエノキにかかっていると急に事件の香りがしてくる。

他にもがんなどで入院した際には入院日数に応じて保険がおりるなど、医療保険的な側面もあるようだ。

しかし、これで私はがん保険と医療保険合わせて4つがんに関する保険に入っていることになる。いくらなんでもがんに備えすぎではないか。

そしてこれだけ入っていても、「せっかくだから使いたい」とは1ミリも思わないのがすごい。


しかしがんにはならないかもしれないが「死」だけは確定である。

一生涯保障の生命保険ということは、たとえ寿命で死んでも2000万円相当が入ってきておいしいのではないか。


だがもちろん、そんなことはなく61歳を過ぎると死亡時でも保険金は100万~600万に激減し、80を超えるとどんな凄惨な死を遂げても100万しかもらえなくなってしまう。


自分は死んだあとなのでどうでもいいと言えば良いのだが、もし61歳で死んでしまったら、遺族に「どうせならもう1年早く死んでくれていれば」と思われるかもしれないということだ。


保険は安心のために入るものである。入ったことにより家族含めて人心が惑うような保険には入るべきではない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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