第29回 「お年玉をくれるけど何している人かよくわからない親戚」はオレ

文字数 2,301文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

前回、新年の親戚の集まりで漲る子供力を見せつけてやる、と言ったが、想像以上に有言実行になってしまったことをここにお知らせする。


こどおじやこどおばは「いくつになっても永遠の末っ子」と言ったが、私の実家の集まりはリアルに私が最年少という限界集落である。

このまま私の一族はダムの底に沈む予定だが、対して夫の実家は順調に子孫繁栄しており、私の家だけが「ここが終点」という佇まいをしている。


だが他所の子供の成長は指毛のように早い。

甥姪もついに就職をしはじめ、私の「大人なのになぜか外で働いてない人」の異物感が余計際立ってきた。

それにしても、当たり前のように学校を卒業してから即就職するのがすごい。

学校を卒業してから「何者でもない2,3年」を過ごすのが普通だと思っていたが、私という「何者でもないまま40年経過した結果」がいるせいか、みんな堅実である。

私も若者を奮起させる存在になれたなら何よりである。


そうなると問題は「お年玉」だ。

普通なら、就職した順にお年玉はあげなくなるものなのかもしれない。

しかし姪たちは、ちょうど年子の姉妹であり、妹の方が先に学校を卒業し就職、姉の方は来年卒業で就職という状態になってしまった。


就職しているとはいえ姉にあげて妹にあげないのはいかがなものか、となり、事前に親戚間で打ち合わせが行われたようである。


この時点で「社会」を感じる。

私だったら特に相談もなく、「両方あげとけばいいだろう」という雑な動きをして「あそこの家はくれたのにあの家はくれなかった」という、新年早々無駄なピリつかせ方をしただろう。


「ほうれんそう」は社会人の基本である。

逆にいえばそれが一切できないのが社会不適合者の基本である。


社会不適合者に必要なのは「はい!はい!はい!」だ。

全く話を理解できていなかったり、絶対OKしてはならないことを言われた時でも、とりあえず元気よく返事だけしてしまうのが俺たちなのだ。


幸い夫がほうれんそう側なので各家庭足並みをそろえることができたのだが、夫は打ち合わせからポチ袋と中身の用意まで自分でやるくせに、なぜかお年玉を子供に「渡す役」だけ私にやらせるのである。


これは、親戚の子供から見ると「得体の知れないおばさん」である私を、「お年玉をくれる得体の知れないおばさん」に格上げしようという配慮なのかもしれない。


しかし、得体の知れないおばさんにそんな重要なことを任せてはいけないのである。


相手は年子で姉妹、つまり良く似ているのだ。


そして私は見事、姉妹に逆にお年玉を渡したのである。

さすがに一度渡したものを取り上げるわけにはいかず、後日姉の方にも渡すことになり、せっかく揃えた足並みを見事総崩れにすることに成功した。

私が敵軍のスパイならかなり有能だが、残念なことに自軍の者である。


ろくに確認もせず渡すところがいかにもだが、「親戚ですら顔と名前を正確に覚えようとしない」という、にじみ出る他人への興味のなさがより高得点だ。


しかし、子供たちも私のことを正確に把握していないだろうから、ある意味イーブンである。私自身も自分のことを正確に説明しろと言われても困るぐらいだ。


それにしても、身内間でもここまで気を使わなければいけないというのは驚きだ。

これは私が社会性に欠けるというより、社会の難易度が高すぎるのではないか。


ただ、中年には腐った餅でも与えとけばよいが、子供に与えるものはそれなりに配慮しなければいけない、というのもわかる。


最近の親は、「スマホ」をいつ子供に与えるかが最大の難問になっているらしい。

そしてどこの親もギリギリまで与えないで済むように粘っていることが多い。


しかし、徐々に土俵際でうっちゃられる親が増え、そうなると子供は「周りはみんな持っている」と言い出し、そうなるとさすがに与えないわけにはいかなくなるという。

最近の子供はLINEなどでやりとりするため、そのグループに入れないというのは死活問題らしい。つくづく私の学生時代にスマホが無くて良かった。


何故親が子供にスマホを与えたくないか、というと、子供にスマホを与えたら「永遠にスマホをいじり続ける」ということがわかりきっているからだ。

そして子供ゆえの自制心のなさから、課金や長時間通話で多額の請求をされるのではないか、という危惧もあるのかもしれない。


だがこれは杞憂である。

何故なら私は40歳でも一日19時間スマホをいじり、毎月課金による多額の請求をされているからだ。


子供だからスマホを持たせると危険、というわけではないのである。


私も子供時代は親からなかなかファミコンを買ってもらえず、買った後も「1日1時間」と決められていたが、その教育が生きたかというと現在このありさまである。


スマホを与えるのを2,3年遅らせたからと言って、結果は大して変わらない。教育は時に無力である。


だが、目の前にいる40歳になってスマホに19時間かじりつき、毎月多額の請求をされているような大人にしたくないから、スマホを与えたくない、という親の気持ちもわかる。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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