第71回/年末といえばおなじみの年末調整だが

文字数 2,580文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

今年の公務員の冬のボーナス平均は80万ぐらいらしいのだが、それに怒りを覚えるのはもちろん、ボーナスという言葉に反応している内はまだ青い。

その意味と存在を完全に忘却した時、はじめてフリーランスそして無職としてスタートが切れたと言える。

そもそもフリーランスや無職にボーナスがないことは当たり前であり、それをわかった上でやっているのだ。

「無職にボーナスがないなんて聞いてないぞ」と怒っている人は、あまり見たことがない。


賞与アリという条件で入社したのに、業績不振などと色々理由をつけられてカットされている会社員の理不尽に比べれば、ノージョブノーボーナスは正当でしかないのだ。


このように今のご時世、会社員といえどボーナスが必ずもらえるというわけではなく、その額にも大きな隔たりがある。

もはやボーナスは「ここで仕掛ける」という覚悟がなければ、おいそれと口にすべきではないセンシティブな話題と化しているような気がする。


だが、ボーナスはなくても年末調整が関係ないという会社員はいないだろう(確定申告をするなら別だが)。もしうちの会社には年末調整がない、という正社員の方がいたら専門機関に相談した方が良い。


年末調整とは、と説明したいところだが、私はその意味を理解する前に会社員を辞し、関係がなくなったので今更調べる気もないし、おそらく再びヨリが戻る日も来ないだろう。


ただ、理屈はわからないが、小金がもらえるイベントだったとは記憶している。

もらえるのではなく、元々自分の払いすぎた税金が戻ってくるだけであり、額も僅かだが、コンビニで3日連続豪遊できる額が現ナマで返って来ると思えばワクつかずにいられない。


しかし、年末調整は必ず返って来るというわけではなく、逆に追納になるケースもなくはない。

年末調整で追納になるのは大体配偶者や子供が就職し、扶養から抜けてしまった時である。

私は成人後ですら誰かの扶養に入ることはあっても誰かを扶養に入れたことはないナチュラルボーンパラサイトなので正確なことはわからないが、扶養控除というのはかなり大きなものらしい。

扶養に入れば控除だけではなく健康保険料などの負担もなくなりメリットが大きい。パートの人などが配偶者の扶養に入れるように収入を調整して働くのはそのためである。


だったら私も夫の扶養に入って健康保険や厚生年金をせしめたいところだが、扶養の条件から外れているのに扶養に入っていることがバレると、その期間の保険料や税金を遡って請求されるだけなのでもちろんおすすめはできない。

お上は納め過ぎに対しては仏のように寛大だが、脱することに関しては思春期のように繊細かつ敏感なので、高確率でバレると思った方が良い。

逆に言えば扶養家族が多いほど税的に優遇されるということだが、減税のために家族を増やそうという気にはならないだろう。やはり何かピントがズレている。


これら扶養家族の情報は年末前に会社から配られる年末調整用書類に記入して提出する。

私はこの書類と無縁になって5年以上になるが、何か様式に変化があったかもしれないので久々にチェックしてみた。


年末調整の書類は主に二枚あり、1枚は扶養家族などの情報用で、もう1枚は加入している保険などの情報用である。


扶養家族の方は、何せ今まで自分のアナルを拭くのに精いっぱいで、誰のケツも持ったことがないため、この用紙には自分の名前しか書いたことがなく変わっていたとしてもわからない。また、保険の方にも大きな変化はないように見える。


控除対象になる生命保険は、生命保険や医療保険などの「一般の生命保険」と「個人年金保険料」そして「介護保険料」に分かれている。


そういえば、私はこれだけ保険に入っているのに「介護保険」には入っていない、ということに気づいた。


介護保険とは、その名の通り介護が必要になった時に保険金が出る保険のことだろう。

望まなくても無駄に長生きしがちな現代においては必要な保険と言える。


がんに関する保険には都合4つ入っている私だが、がんにはならないかもしれないが、老化して介護が必要になる日は必ずくるだろう。使う気で入っているならがんより介護保険に入った方が良いはずだ。

それに私は何故かがん保険に2つ入っているのだ。保険控除も上限があるので、どれだけ生命保険を重ねがけしても天井以上控除されることはない。それよりがん保険を一つにして介護保険に入った方が税金的にも良い気がする。


しかし、不用意に介護保険に入りたいなどと口走ったら、がん保険2つキープで新たに介護保険に入るという超展開になる未来しか見えないので、おいそれ夫に保険の話をするわけにはいかないのである。

ここまで一般生命保険項目を1人でダブらせまくっている奴もそんなにいないと思うが、保険に入る際は税控除のことも考えてバランスよく入った方が良い。


ちなみに保険は人間にかけているものだけではなく、地震保険など家にかけた保険も控除対象であり、住宅ローンがあれば10年は特別控除が受けられるはずである。


家を持っている者として、これらの控除は助かるのだが、よく考えれば「家を持てば税優遇が受けられる」というのも不思議な話ではある。


国からの優遇とはのっぴきならない者からされるべきであり、少なくとも家を買うという発想がある時点でそこまでのっぴいてはいないはずだ。持ち家以前に家に屋根がない勢など、もっと先に優遇すべき層があるのではという気もしなくはない。


以前はそのような疑問を持つこともなかったが、全てにおいて疑問を持つことは大事であり、できれば決定を下す前に持った方がいい。

あとになって「保険入りすぎじゃないか」と疑問を持っても、面倒やしがらみでそう簡単に解約はできないのである。


カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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