第4回 2兆4千億くらい欲しい バクチ国家ジャパン

文字数 2,336文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。


「会社勤めだけをバカの一つ覚えの如く数十年続け、稼いだ金は銀行預金」

最近、それが良しとされてきた日本のマネーリテラシーは、控えめに言って縄文、はっきり言えば旧石器時代と言われている。


そんな古い生き方は捨て、これからは副業などで収入源自体を増やし、稼いだ金は投資に回してさらに増やしていかなければいけないそうだ。


この時点で、俺の数が増えていないのにやることだけが2個は増えているような気がする。

もしかしたら「過労で早死にすることにより老後問題解決だドン!」という、逆転の発想なのかもしれない。

確かに、老後が来る前に召されることができれば「老後2000万問題」も一瞬で解決である。


そもそも「古い生き方」扱いされている「何十年も働いて銀行預金をしてきた人」というのは、どう見ても「真面目な人」だ。

つまり真面目にやってきた真面目な人が野垂れ死ぬ世の中になったということだ。世界観だけでいうなら『北斗の拳』と完全に一致である。


しかし、国やメディアに資産運用だ投資だと言われて、「やらなければいけないのか?」と気になっている人も多いだろう。


まず資産形成をするにあたり、一番最初に投資を考えるのは、童貞が孫の名前で悩むぐらい順序が間違っている。


投資というのはあくまで金を「増やす」手段であり、それなりに元手となる資金がなければあまり成果が見込めないのだ。

少ない元手で大きな成果を出そうと思ったらリスクも高くなる。そうなったらもはや投資ではなく投機であり、ギャンブルと大差ない。


つまり「資産運用をしよう」というのは、まず国が全国民に投資に回せる資金が貯められるぐらい余裕のある生活をさせてからの話である。


今の状態で投資をやれと言われたら投機をやるしかなく、意味としては「パチで老後資金を

稼げ」という、さすが世紀末国家なだけある政策になってしまう。


よって、資金がない人間は逆に投資をやるかやらないかで悩む必要が一切ないのだが、貯金がある人の中には、このまま漠然と銀行預金だけをしていて良いのか、と迷っている人もいるだろう。


私の経験からいうと、なんか知らんけど投資をした方が良いらしい、というぼんやりとした感覚で、よく知らんまま投資を始めるぐらいなら、アヘ顔ダブルピースのまま、銀行預金だけやっている奴の方がまだ利口である。


私も「なんか知らんけど投資をしなければ野垂れ死ぬらしい」というふんわりした情報で、とりあえず配当が高いらしいという個別株を買ったところ、「−100000」という刺激的な数字が出て、その場で野垂れ死にかけた。


だが、ここで問題なのはマイナスを出したことではなく「マイナスに狼狽した」ことだ。


預金と違い投資には「マイナスになる可能性がある」というデカすぎる特徴がある。

おそらくそれが怖くて二の足を踏んでいる人も多いだろう。


しかし、投資を長期でやるとしたら、「一度もマイナスを見ない」ということは滅多にない。

リーマンショックやサブプライムのように、定期的に大暴落は起きる。

直近でいえばコロナショックがあり、「俺の保有資産全部マイナス」という絶景を見た人も多いだろう。

ちなみに俺たちの楽天証券は、マイナスを赤ではなく緑で表示してくれるため、コロナ時には「ハローハローシステムオールグリーン」というBLEACH状態となり、若干ほっこりした。


しかしコロナ時の暴落は、既に回復済みである。

つまり暴落したとしてもいつかは元に戻る可能性の方が高いので、長期投資なら一時期のマイナスに狼狽して下手に売ったり買ったり手首を切ったりするのではなく、ただ静観しておいた方が良いということだ。


しかしこの「マイナスのストレス」が、思っていた以上に重いのだ。


我々旧石器時代の価値観を持つ日本人は、銀行預金という「全く増えはしないが減りもしない」システムに慣れすぎているため、投資の「預けた金が減っている」という状況が新感覚すぎて最初はなかなか受け入れられないのである。

よって、一時期のマイナスに狼狽して傷を広げたり「こんな恐ろしくて理不尽なこと二度とやるか」とタンを吐いて出ていき、二度と投資には手を出さなくなってしまったりする。


私も「−100000」の数字に、「投資は怖いし俺には才能がない」というエロ同人誌級の「わからせ」をさせられてしまったため、その後2年ぐらい投資の類には一才手をつけなかった。


その後、ぼんやりした知識の人間でもそこまでリスクなくできる、積立NISAなどの投資もあると知って戻っては来たが、結果として2年出遅れることになってしまったのだ。


世の「マネーリテラシー高夫」たちが口を揃えて「投資は最悪なくなっても良い金でやれ」と言うのはそういうことである。


マイナスを見ても「逆に考えるんだ、なくなってもいいや、と」というジョナサンの親父心境になれれば、狼狽することはない。

逆に子供の給食費や花京院の命を賭けてマイナスになったらとても冷静ではいられないだろう。


つまり、できるだけ安全な投資をさせたかったらまず「なくなってもいい金」が発生するぐらい、国民に余裕のある生活をさせるべきなのである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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