第9回 フリーランスに襲い来る卑劣な罠……予定納税!

文字数 2,178文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。

3月に確定申告を終え、所得税を払い6月ごろに自動車税と住民税を払った、ちなみに国民年金と健康保険もこの時期に払わなければいけない。


だがこれで去年分の税金は全て払い終わったはずである。

去年の税金を払い終わったらどうなるか、ネットに張り付きすぎて、原作は全く知らないがこのコマだけは親の顔より見た、というネットコブラーの皆様なら説明は不要だろう。


来年の税金が始まるのだ。


このコラムを読んでいる皆様は、会社に勤めて税金を滞りなく納めている国にとって苦しゅうない愛い奴ばかりだと思うのでご存じないかもしれないが、フリーランスには「予定納税」と言って来年分の税金を前払いしなければいけない制度があるのだ。


今年の所得税金額から、来年の所得税金額を概算し前払いしなければいけないのである。


何を言っているのかわからないかもしれないが、私も何を言われているのかわからなかった。

言葉では理解できても「なぜそんなことをしなければいけないのか」魂が理解を拒否している。


どうせ、フリーランス野郎は一瞬目を離した隙に干されて税金支払い不能になりやがるから、金があるうちに税金を押さえておくことが目的なのだろう。


しかしろくに調べもせず「こうに違いない」と言って憤るのは、いかにもTwitterが好きそうな人という感じで恥ずかしい。


もしかしたら納得できる理由があるのかもしれないので、今更だが予定納税について調べてみた。


個人事業者の場合は、確定申告をしてから納税するので、収入があった時期と、納税の時期が1年ずれるので、その時間差を埋めて、税金を早めに確保するのがこの制度の主旨だそうだ。

例えば漫画家が大ヒットを出し一時的に大金を得ても、それに対する税金を払うのは来年である。

何せフリーランス野郎は、こちらが一瞬JKのパンチラに目を奪われている間に干からびて死んでいるため、税金を取る時には金がなくなっており「そう言われたかて、ない袖は振れまへんな」と開き直ってくるので税務当局が困ってしまう。

よって、予定納税により金があるうち押さえられるようにした、というわけである。



本当に、すぐ金がなくなるフリーランス野郎からの、取りっぱぐれを防ぐためだけの制度で驚いた。


しかし、軽減税率適用により適切な税額がわかるようにするため、という明らかな建前で個人事業主から税金を取ろうしているインボイス制度に比べれば、潔くて好感が持てる。気に入った。家にきて妹(初老)とヤッていい。


さらに税務当局もこちら側の都合で前払いをさせているということを認めており、予定納税で払いすぎた分は「利子」がついて還付されるらしい。


還付がなければ本当に先に払っただけになるが、どうせ払わなければいけないものを先払いしただけだし、場合によってはワンチャン得できる制度と言えなくはない。


ただ「予定納税の時点で金がない」という、先に金を押さえようとする税務当局のさらに先を行くスプリンターも当然いるのだ。

むしろ予定納税は諸々の税金や年金や保険を支払った後に来るので、一番金がない時期と言っていい。

じゃあ金がある時期があるのかと言われたらないのでいつ来ても同じとも言えるが、特にない時期なのは確かだ。


すでに発生した税金を納めないのは悪いが、予定納税はまだ確定もしていない税金である。それを払わなければどうなるかというと、バッチリ遅延金を取られるそうだ。


まだ決まってない税金の支払いを求められた上に、払わなければペナルティを支払わなければいけないとは、身に覚えのない子供の養育費を請求されている童貞の気分だ。


だが、この予定納税額は申請すれば減額ができる。

ただ「払いたくないから減額しろ」では通らず、収入減など減額してほしい理由を書いた申請書を出さなければいけない。

まだ支払わなくていいはずの税金を請求された上に、減額のために「仕事が減って苦しいんです」と命乞いをしなければいけないということだ。

この国では、フリーランスというのはもはや、罰を受けなければいけない罪なのかもしれない。


確定申告の仕組みをよく知らずに初めての確定申告で愕然とする、というのはフリーランスあるあるだが、この予定納税を知らずに愕然とするフリーランスも結構多いのではないかと思う。


私も愕然とし、すぐに減額申請を出そうとしたが、減額理由に所得の計算などが必要だったため「面倒なのでやめた」。

結局予定納税はなす術なく引き落とされていき、その1年どう生きたのかはあまり記憶がない。


仮に国がどれだけ国民に対し手厚い制度を用意したとしても、そこには「申請」がつきものであり、それができなければ恩恵は受けられないのだ。


「面倒くさがり」というのは、「性格が貧乏」ということなのである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosai29

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