第58回/市から無料の健康診断通知が来たところで

文字数 2,353文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

中高年が集まると病気の話になりやすいが、それは情報共有という意味もある。


しかし「己の不具合状況を報告するだけ」という、動作停止したウインドウズみたいな真似ばかりせず、どうしたら不具合が起こらないかの情報共有もすべきだろう。


だが何せ集っているのは中高年なのである。数十年様々な美容健康法に挫折した結果、不具合を防止するためには、十分な睡眠、適度な運動、バランスの取れた食事しかないと全員わかっているし、それが無理だということも分かってしまっているのだ。逆にいうと、そんな当たり前のことを理解するのに数十年もかかったと言えるが、他の生物が生後三日で理解することに半生をかけるのが下等生物人間であり、中には一生理解しないまま終わる個体もいる。


だがもし人間がこの世の残酷にすぐ気づく利口な生き物だったらすぐ悲観して死ぬと思うので、この愚鈍さは100年近く生きるために必要なのだ。


これらの健康によい生活は意志の問題でも無理だが、その場にいた者が全員炊事に関わっていたため「健康に良い食生活は経済的にも時間的にも無理」と満場一致したため、その話はそこで終わった。


我々にできることと言えば、発生した不具合を早めに見つけて対処することぐらいである。だが健康を害しやすい奴ほど、健康診断を怠ったり、ちょっとの違和感では病院に行ったりしないため、気づいた時には手遅れというパターンが多いのも事実だ。


特に会社員は会社の命で定期健診に行くが、我々無職やフリーランスはほぼ完全に任意なため、このパターンに陥りやすい。しかも、会社員と違って自己負担な場合も多いので、余計健康診断から遠ざかってしまう。


だが全く補助がないというわけではなく、たまに市から検診の補助の通知のような物が届いているような気がする。そしてこれを開かないまま期限切れを起こすのが俺たちだ。もしかしたら無職の健康診断制度が渋いのは、「補助しても無視する」せいもあるのかもしれない。


しかし、隙あらば税金とその使い道にキレているのに、健康診断の補助を無視するのはどう考えてもおかしい。先日の中高年の集まりでも無料検診通知の話が出てきたので、私も家に帰ってから通知を開いてみた。ちなみにここは未開封を責めるのではなく、「なくしていない」ことを褒めるところである。


届いていた通知はがん検診の受診券であった。今年40歳の節目年齢なため、子宮がん乳がん胃がん肺がん大腸がんの検診がタダでできるというかなり気前の良い話のようだ。


我々が恐れる病気といえば、やはり「がん」だ。どこかが痛めば「がんでは」と思うし、ググれば最終的に「がんの恐れあり」という結果になる、実際日本人の死因トップであり、3人に一人ぐらいはがんで死んでいるという。


むしろ健康診断というのはがんでないことを確認できればそれでいい、みたいなところもある。せっかく無料でこれだけ診てくれるのだから予約をしようと思ったのだが、WEB予約開始はまだ先のようである。


よって、受診券はそれまで大切に保管、ということはもちろんなく、普通に「床」に置かれたため、現在受診券は謎のシミだらけであり、かなり提出するのが厳しいビジュアルになっている。つまり、これだけ無精で健康を害しそうな行動を取っているのに、検診には来るというギャップ萌えを狙う作戦だ。


だが、検診はあくまで「がんになってないorいる」の事実確認であり、大事なのは最初からならないことである。


しかし3人に1人がなるなら、気をつけていても高確率でなると思っていた方が良いだろう。それよりがんになったあと俺たちはどう生きるかが問題であり、その選択肢を広げるために「早く見つけろ」と言われているのだ。


諦めて余生を生きる自然派もいるだろうが、治療をする人も多いと思う。そこで気になるのが「治療費」である。がんは多いので「がん保険」というがん特攻保険もある。


私もがん保険には加入しているはずなのだが、どのような保障があるのか全く把握していない。

この「よくわかっていないものに平気で毎月金を払い続ける神経」こそが、「知らないうちに金がない」を引き起こすのである。ちなみに最近全く使用していない「dアニメ」なるものに、毎月550円を捨て続けていたことが判明した。


一度保障内容を確認しようと思ったのだが、当然証書のありかがわからない、このままでは保険を使える状況になっても、ワンチャンよくわかってないから使えないままである。


夫の帰宅後、保険証書を見せてくれると頼むと「5枚」ほど証書がでてきた。ネットによれば、一世帯の平均生命保険加入数は「4件」程度らしいので、この時点で様子がおかしい。そして私はがん保険に「2件」入っていることが判明した。


保障内容を把握していない以前に、加入を把握していない保険が出てくるという予想外の展開だ。おそらくこれは、夫がノルマのために加入者を私にして保険料を自分で支払っているものだろう。


知らないうちにがんになる準備は万端になっていた。これで安心してがん検診にいくことができる。しかし、安心しすぎて検診に行かないような気もしてきた。



 

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

「寝そべり錬金術」は毎週【金】曜日12時ごろ更新!

↓前回の「寝そべり錬金術」はこちら!

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色