ゴッホはなぜ死んだのか 知識欲くすぐるミステリー
文字数 2,049文字
話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!
そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。
ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。
『リボルバー』原田マハ
この記事の文字数:1,434字
読むのにかかる時間:約2分43秒
文・構成:ふくだりょうこ
■POINT
・オークションに届けられた拳銃の謎
・ゴッホとゴーギャンの関係とは
・ゴッホを撃ったのは誰なのか
「画家から何か受け取るつもりで、絵に向き合ってみたらいいよ」
主人公の高遠冴の部屋に子どものころから飾られていたゴーギャンとゴッホの複製画。同じ時期に画家として人生を全うした2人について母が語った時に出た言葉は冴の人生の道しるべのひとつとなった。
原田マハの最新作『リボルバー』。関ジャニ∞安田章大主演で舞台化も決定している作品だ。
幼いころ、毎夜ゴーギャンとゴッホの絵を眺めながら眠りに落ちていた冴は、パリ大学で美術史の修士号を取得したのち、オークション会社のキャビネ・ド・キュリオジテに就職する。
しかし、小さなオークション会社に持ち込まれるのは誰かのクローゼットの中に眠っていたようなささやかな“お宝”ばかり。冴は同僚たちとともにいつか高額の絵画取引に携わりたいと思っているが、なかなかそれは叶わない。
そんな冴たちのもとに持ち込まれたのは錆びついたリボルバー。鉄くずにしか見えないリボルバーだが、持ち込んだ女性はこう言う。
「あのリボルバーは、フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」
冴はそのリボルバーが本当にゴッホが使用したものなのかを確かめるため、調査に乗り出す。美術史を学んできた彼女はゴッホとゴーギャンを専門とし、2人の関係性を追いかけ続けていた。そんな彼女だから、リボルバーの信ぴょう性をたどるためにゴッホ所縁の地を訪れる。その中でゴーギャンの名が浮かびあがってくるのだ。
誰もが知っているゴッホの名。後期印象派の画家として名を残し、アートに詳しくない人でも一度は名前を聞いたことがあるはずだ。
そんなゴッホとの逸話を持つのが同じく後期印象派の画家として知られるポール・ゴーギャンだ。
ゴッホとゴーギャンは南仏アルルで共同生活を送っていたことがある。しかし、その生活はたった2ヶ月で終わる。2人の芸術観がかみ合わず、関係が悪化。ゴーギャンは出ていこうとするが、ゴッホはそれを引き留めるために自分の左耳を切り落とした。その後2人は手紙のやりとりは続けていたが、二度と会うことはなかった、と言われている。
そんなゴーギャンがどのようにゴッホの死に関わっていくのか。
リボルバーで自殺を図り、そのときの傷が原因で亡くなったゴッホ。その史実は今も覆されてはいない。しかし、作中ではその死にゴーギャンが関わっているのではないか、という問いかけがされている。ゴーギャンの人生を紐解いていくことで、冴はその答えを探り出す。更に、リボルバーを持ち込んだ女性はある重大な秘密を抱えており、それがゴッホとゴーギャンの関係を紐解くことになる。
19世紀当時のことを誰も知りえない。だからといって何とでも推理できる、というわけではない。そこにはゴッホとゴーギャンの人生を丁寧にたどったからこそ考えられるドラマがあるのだ。
19世紀のパリを舞台とした大河ドラマとも言える本作。舞台では作者の原田マハ自身が戯曲を手掛ける。また、主演の安田が演じるのは“ゴッホ”。小説ではゴーギャンによりフォーカスが充てられているようにも見える。舞台ではどのような『リボルバー』が観られるのか、興味深い。
個人的には、最後まで読み終えたあとに、冴のゴッホとゴーギャンとの出会いであるプロローグを読み返すと、なんとも響くものがあった。もしかしたら、冴は出会ったときからゴッホとゴーギャンから“何か”を受け取っていたのかもしれない。