お金大好き女性弁護士が、遺言状の謎に挑む爽快ミステリー

文字数 1,956文字

話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!

そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。

ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。

今回の話題作

 『元彼の遺言状』新川帆立

この記事の文字数:1,511字

読むのにかかる時間:約3分1秒

文・構成:ふくだりょうこ
■POINT

・世にも風変りな遺言状に敏腕弁護士が挑む

・際立つ女性弁護士の存在感

資産家の被害者一族の力をも利用する豪腕ぶりが爽快!

■世にも風変りな遺言状に敏腕弁護士が挑む


「完璧な殺害計画を立てよう。あなたを犯人にしてあげる」


 どんな悪役が発したかと思いきや、このセリフは物語の主人公である弁護士の剣持麗子によるものだ。


 2021年第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『元彼の遺言状』。

お金が大好きな主人公・剣持麗子。弁護士としてバリバリ仕事をこなし、28歳にして年収は2000万円近くあるけれど、それで満足はしていない。もっと稼ぎたい、と高い意識を持っている。

 しかし、物語冒頭の彼女は不機嫌顔だ。恋人からは安い婚約指輪でプロポーズをされ、弁護士事務所の面談ではボーナス額が下がると宣告をされてしまう。

 こんな事務所やめてやる! と、むしゃくしゃを抱えた麗子は大学生のときに付き合っていた恋人・森川栄治に気まぐれにメールを送る。

 1週間後、彼から――正確には彼の身の回りの世話をしていたという人間から返信が来る。

『栄治氏は一月三十日に永眠し、……』

 まだ30歳の元恋人の死に、不謹慎ながらも興味を抱いた麗子は栄治の友人・篠田に連絡を取る。そして篠田から聞かされたのは不可思議な“遺言状”。

「僕の全財産は僕を殺した犯人に譲る」


 最初は乗り気ではなかった麗子だが、お金と好奇心に負けて、元彼の死の真相に迫っていくことになる。

■際立つ女性弁護士の存在感


「お金がないなら内臓でもなんでも売って、お金を作ってちょうだい」

「私はお金が欲しくて働いているんです」

「私に入ってくるのはたかだか10億。ぜんっぜん割に合わない」


 ……このようにお金が好きと言っても麗子の場合はケタ違いだ。40万円の婚約指輪に安いと激怒し、250万円のボーナスを「250万円ぽっち」と言う。率直に言えば業突く張りな女性なのだが、自分の中での白黒がはっきりついていて気持ちが良い。

 見た目も良いので、さぞや女性たちに嫌われるだろうと思ってしまうが、弁護士という職業柄か、それぞれの女性たちを客観的に見ているのが分かり、好感が持てる。事件を調べている中で出会った女性と同志のような関係になったり、気は合わないけれどある女性の幸せを願ったり。目的を達成するためには手段を選ばないところも爽快だ。

 物語の中で、麗子のキャラクターの細部まで輪郭がはっきりしていくことで気がつけばいつのまにか彼女のことを好きになってしまう。

■資産家の被害者一族の力をも利用する豪腕ぶりが爽快!


 自分を殺した犯人に全財産を譲る、という奇妙な遺言状。周りの人たちは戸惑う。なにせ、公表されている森川栄治の死因はインフルエンザなのだから。

 しかし、栄治は大手森川製薬の創業者の一族。持っている財産は莫大だ。遺言書のことが明るみに出ると財産目当ての人間たちが湧いて出る。森川製薬の取締役を巻き込み、世間の話題をかっさらう。

 さらには犯人へ財産を譲るという遺言状だけではなく、親しかった人たちへの財産分与を記した第二の遺言状も登場し、栄治に関わる人たちはさんざん振り回されることになる。小中高校の担任や、所属していたサッカークラブのメンバーのほか、元カノにまで自分の土地を分与するのだ。手続きだけでも大変なものになる。そんな混乱の中、麗子は依頼人を犯人とし、財産を受け取らせるために事件の真相に迫っていく。


 森川一族の複雑な人間関係が物語を解くきっかけになるわけだが、ラストは事件解決以外の爽快感も与えてくれる。ちりばめられた伏線を読み逃さず、麗子よりも先に真相に気づくことができるのか……ぜひ挑戦してみてほしい。


今回紹介した本は……


『元彼の遺言状』

新川帆立

宝島社

1540円(1400円+消費税10%)

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