恋愛が苦手な人こそ読んでほしい。動物から学ぶ痛快ラブコメ!
文字数 2,248文字
話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!
そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。
ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。
今回の話題作
『パンダより恋が苦手な私たち』瀬那和章この記事の文字数:1,540字
読むのにかかる時間:約3分4秒
文・構成:ふくだりょうこ
■POINT
・動物の求愛行動から人間の恋の悩みを読み解く
・モテたい、子孫繁栄したい! 動物たちの恋は命がけ
・人間の恋はめんどくさい
■動物の求愛行動から人間の恋の悩みを読み解く
「私たちの恋に足りないものは、野生だ。」
プロローグの一文目で感嘆の息が漏れた。人間は頭で恋をしようとしすぎだ。
瀬那和章の書き下ろし最新作『パンダより恋が苦手な私たち』。
出版社・月の葉書房で働く主人公の柴田一葉。社会人3年目になるが、あまり仕事に情熱を向けられていない。というのも、一葉が入りたかったのはファッション雑誌の編集部。しかし、月の葉書房にはファッション誌がない。結果、働く女性をターゲットにした、新しいオフ時間を提案する雑誌『リクラ』編集部で働くことになったのだ。
そんなある日、一葉は恋愛コラムの編集を任される。執筆するコラムニストはモデルの灰沢アリア。一葉が10代のころから憧れ、神様のように思っていた存在だ。緊張しながら、アリアに会いに行く一葉だったが、彼女の口から出た言葉は予想外のものだった。
「名前を貸してやるから、コラムを書くやつはそっちでみつけろっていってんだよ」
結局、アリアの代わりに執筆することになり、頭を抱える一葉。そこにアリアのマネージャーの宮田から一本の電話がかかってくる。彼から紹介されたのは「恋愛のスペシャリスト」と噂の大学准教授・椎堂司。藁にも縋るような気持ちで椎堂の元を訪れるが、彼は人間ではなく動物の恋愛のスペシャリストだった。
■モテたい、子孫繁栄したい! 動物たちの恋は命がけ
結局、一葉は動物たちの求愛行動からヒントを得て、恋愛コラムを書き始める。作品自体はラブコメなのだが、作中には動物に関するトリビアが満載だ。例えばラッコのオスは、求愛行動のフィナーレとして、メスの鼻の下に噛みつく。メスが逃げなければカップル成立。オスは噛みついたままメスを押さえつけて交尾を行う。噛みついたままでないと海の上では態勢が維持できないからだ。
メスは噛みつかれた部分から血を流しながらオスを受け入れる場合もある。そのため、このときのケガが元で感染症を起こして死んでしまうこともある。「まさに、ラッコのメスは、命を懸けて恋をしているのだ」と椎堂は言う。
それぞれの動物は繁殖し、命をつなぐために恋をする。ただ誰でもいいとうわけではなく、彼らも相手を選んでいるわけだが、その基準もさまざまだ。人間ほど複雑ではないが、動物たちも「モテる」ために苦労はしている。
彼らのすごいところはモテのために姿が変化していく場合もあるということだ。モテへの執着はある意味、人間よりも強いかもしれない。そんな話に自然と「へえ」と興味を持ってしまうし、たぶん、明日誰かに話したくなるはずだ。
■人間の恋はめんどくさい
さて、人間たちはというと……。
本作に登場するキャラクターたちはみな個性的である。一葉はどこか無気力、椎堂は動物にしか興味がない変人、アリアは女王様気質、一葉の先輩や仲の良いカメラマンもひと癖ある。そして、それぞれが恋愛で悩んでいて、現状から前に進むことができずにいる。そのために失敗したり、後悔したりもする。
そんな彼らの悩みも動物たちの求愛行動を参考に結果的に解決していくことになるわけだが、「人間の求愛行動には、野生が足りない」という椎堂の言葉に頷いてしまう。人間は脳が発達したおかげで、考えすぎ……というか行動を選びすぎてしまうのかもしれない。求愛するまでの過程が多い。年の差や、経済面、見た目など好きになる条件、好きにならない条件も多い。直感で「好きだ!」と言えるような恋がもしかすると一番人間の野生に近い部分なのかもしれない。
とは言え、フラれたときは理性を持って撤退を。人間なので。
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