あり得ない! 事件を一晩で解決する弁護士・剣持麗子、見参。
文字数 3,723文字
話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!
そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。
ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。
新川帆立『剣持麗子のワンナイト推理』
この記事の文字数:1,500字
読むのにかかる時間:約3分00秒
■POINT
・眠い目をこすりながら解いていく事件の謎
・事実は小説より奇なり、というが。
・人間としての成長が見られる麗子
■眠い目をこすりながら解いていく事件の謎
「だから一般人相手の仕事は嫌になる」
いいぞ、剣持麗子らしいセリフだ! とスタート数ページでワクワクしてしまう。
「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、実写ドラマ化もされている『元彼の遺言状』のヒロインが再び登場する『剣持麗子のワンナイト推理』。
元彼・森川栄治の顧問弁護士だった町弁・村山権太。思うところがあり、亡くなった村山の業務を引き継いだ麗子だったが、入るのは面倒なわりにはお金にならない案件ばかり。お金が大好きだった麗子だが、意地になってこなしているうちに評判が立ってしまい、更に仕事が舞い込むようになる。
昼間は都内の大手法律事務所で忙しく働いているので、村山絡みの案件は合間にこなすしかない。麗子の仕事の合間とは主に深夜だ。一般民事の仕事はとにかく早く終わらせなければならない……と朝までに解決していく。
物語は5つの短編で構成されているが、連なる短編のラストにはひとりの男の決断が描かれる。
■事実は小説より奇なり、というが。
弁護することになった飲酒運転で引っ掛かった女性が「お酒は飲んでいない、奈良漬けを食べたからだ」と証言する。検査の結果、血中アルコール濃度は0.3%。「奈良漬けを60切れは食べないとこんな数字出ないのよ」と麗子は呆れて言う。飲酒運転に引っ掛かった言い訳が奈良漬けとは……、そんなことはあり得ない、と思うがその後、彼女の自宅から大量の奈良漬けが発見される。
5つの事件は「そんなこと、あり得るのか?」が少しずつちりばめられているが、きちんと根拠が示される。そんな「あり得なさそう」なことがあるからこそ、より事件がリアルに感じられる。
また、今回は新たに新宿警察署刑事課強行班捜査係長の橘五郎が登場する。親しげな口調で距離を縮めるのがうまい男。自称「捜査本部潰しの五郎」。捜査本部が立つ前に事件を解決してしまうからだ。実際、優秀な刑事で事件解決の糸口をつかむのも早い。もちろん、麗子は警戒心を抱いているが。
そして、キーマンとなるのが「武田信玄」と名乗るホスト。第一話「家守の理由」から登場する。最初は、自分が暮らす家の不動産屋が殺され、その疑いを晴らしてもらうために麗子に依頼する。が、第三話からは忙しすぎる麗子の助手として雇われることになる(もとは彼が弁護士費用を払えなかったためだが)。最初、「武田信玄」は村山に頼るつもりで連絡をしたはずだったが……。彼に注目しながら読み進めていくと、物語の見え方が変わってくる。ラスト、明らかになるのは、彼が抱える本当の事情だ。
■人間としての成長が見られる麗子
お金が大事、もっと稼ぎたい、という気持ちが強く見られた麗子だったが、今回は少し違う。なにせ、お金にならない仕事ばかりやっている。
身柄を拘束されている依頼人に「飼い犬の様子を見てきてほしい」と言われて、「ふざけんじゃないわよ」とぶつぶつ言いながらも、対応する。
自分が関わった人間が危険な目に遭いそうだったら、寝てなかろうがなんだろうがタクシーに乗って現場に駆け付ける。「死なれたら後味が悪いから」くらいは言いそうだが、意識せず、情に厚い側面が描かれている。
それは『元彼の遺言状』がきっかけではあっただろう。ただ、もともと麗子の中にあったものが、色濃く出るようになったのかもしれない。
それでも、麗子は言う
「報酬は絶対もらうんだから。ただ働きは嫌よ」
そうやってぶつぶつ言いながら、やがて人情味あふれる女弁護士になっていくのかもしれない。
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「忙しい人のための3分で読める話題作書評」バックナンバー
・「推しって一体何?」へのアンサー(『推し、燃ゆ』宇佐見りん)
・孤独の中で生きた者たちが見つけた希望の光(『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ)
・お金大好き女性弁護士が、遺言状の謎に挑む爽快ミステリー(『元彼の遺言状』新川帆立)
・2つの選択肢で惑わせる 世にも悪趣味な実験(『スイッチ 悪意の実験』潮谷験)
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・ミステリ好きは読むべき? いま最もミステリ愛が詰め込まれた一作(『硝子の塔の殺人』知念実希人)
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・2つの顔を持つ作品たち 私たちは他人のことを何も知らない(『ばにらさま』山本文緒)
・今を変えなければ未来は変わらない。現代日本の問題をストレートに描く(『夜が明ける』西加奈子)
・自分も誰かに闇を押し付けるかもしれない。本物のホラーは日常に潜んでいる(『闇祓』辻村深月)
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・絡み合う2つの物語 この世に本物の正義はあるのか(『ペッパーズ・ゴースト』伊坂幸太郎)
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・鍵を握るのは少女たち――戦争が彼女たちに与えた憎しみと孤独と絆(『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬)
・運命ではない。けれど、ある芸人との出会いがひとりの女性を変えた。(『パラソルでパラシュート』一穂ミチ)
・吸血鬼が受け入れられている世界に生きる少女たちの苦悩を描く(『愚かな薔薇』恩田陸)
・3人の老人たちの自殺が浮き彫りにする「日常」(『ひとりでカラカサさしてゆく』江國香織)
・ミステリーの新たな世界観を広げる! 弁理士が主人公の物語(『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』南原詠)
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