本当に人間は他人に興味があるのか? ひとりの女性の心の機微を描く。
文字数 2,062文字
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そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。
ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。
『雨夜の星たち』寺地はるな
読むのにかかる時間:約2分41秒
文・構成:ふくだりょうこ
■POINT
・他人に感情移入できない主人公が雇われた「お見舞い代行業」
・「めんどくさい人」は 自分なのか他人なのか
・「他人に興味がない」を貫いた先にあるもの
■他人に感情移入できない主人公が雇われた「お見舞い代行業」
「できないことは、できません。やりたくないことも、やりません」
そんなふうに言いきれたら、私たちはもう少し生きやすくなるのだろうか。
寺地はるな最新作『雨夜の星たち』。
主人公の三葉雨音は喫茶店「傘」の2階に暮らす26歳。同僚の星崎聡司が退職したのをきっかけに自身も仕事を辞めた。彼女の特徴は「他人に感情移入ができないこと」。そんな「長所」を見込んで、大家であり、「傘」のオーナーである霧島は三葉を「お見舞い代行業」に雇う。「しごと」は主にみっつ。ひとつめは移動手段がないお年寄りの通院の送迎。ふたつめはお見舞いの代行。みっつめは、それに付随するその他もろもろの雑用。霧島や、霧島の恋人のリルカ、「しごと」で関わる人たち――彼らとの交流が「自分」をしっかりと持っている三葉の心にさざ波を立てる。
■「めんどくさい人」は 自分なのか他人なのか
お見舞い代行業をこなす中で、三葉はさまざまな人たちと出会うことになる。
人を睨みつけるようにして見る癖がある70代男性の権藤。「将来のビジョンとかある?」と恍惚と説教をし始める社会人3年目の二木。入院中の娘の友人になってほしい(但し業務ではない)と依頼してくる吉沢。
二木は「君のためだと思って」と言いながら、説教をして自分を満たしたいだけだった。吉沢は、三葉が業務でなければ依頼は受けられないと断ると「心がないのか」と怒鳴る。それぞれに正義があり、相手がそぐわない態度を取れば「悪」として怒りをあらわにする。誰の気持ちと自分が近いか。それによって、物語の画角も変わってくる。三葉以外の人から見れば、三葉はめんどくさい人だし、三葉から見れば、自分以外にたくさんめんどくさい人たちがいる。当たり前だが、世界は目線によって変わる。
■「他人に興味がない」を貫いた先にあるもの
誰かに対して自分の心が動くことはない。三葉は自分にそう思い込ませようとしているようにも見える。そもそも他人に興味がない人が、同僚の退職をきっかけに自分も仕事を辞めるはずがない。
三葉は母から「あなたのために」とさまざまなことを押し付けられて過ごしてきた。「あなたは私にそれを与えようとするけれど、私はいらない」母にそう訴えても、通じなかった。何年も訴え続けて通じなかったから諦めた。それが「他人に興味がない」のスタートだ。しかし、お見舞い代行業でさまざまな人と接するうちに、三葉はごく自然に「誰かのために」動いていく。動かざるを得ない状況になっていくのだ。
三葉は他人に興味がないというわけではなく、「相手のことをわかった気になりたくない」だけだった。人は、相手のことをわかった気になったとたんに傲慢になる。三葉はこれからも他人に興味などないと思い続けるのだろう。
ただ、人と接し続ければ、興味を持たずとも自然と他人を理解できることもある。他人を理解しようなどとはおこがましい。実はただ誠実に、「自分ができることをする」のが他人と無理なく通じ合うことができる近道なのかもしれない。
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