こんな法律はイヤだ! パラレル「レイワ」を舞台に描くもしもの世界

文字数 2,344文字

話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!

そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。

ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。

今回の話題作

新川帆立『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』

文・構成:ふくだりょうこ

■POINT

・もしこんな法律があったとしたら

・痛烈な風刺小説?

・考える力を持ちたい

■もしこんな法律があったとしたら


「どうか、健康なまま、安らかにいってくれ」


もし死に方を選べるなら、ぽっくりと死にたい。病気などせず、ぽっくり死んで、誰にも迷惑をかけずに。でも、自分の死体は自分ではどうにもできないので、やはり迷惑はかけてしまうか……その辺りもうまい具合に法律がなんとかしてくれないだろうか。


新川帆立による短編集『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』。元弁護士で元プロ雀士の新川が世に送り出すSF短編集。

パラレルのレイワ(礼和、隷和、零和、例和……とレイワがよりどりみどり!)にある6つの架空の法律に振り回される人々を描く。


「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達」により、酒を自分で作らなければならなくった麗和、「通貨の単位及び電子決済等に関する法律」により、現金を持つ人が差別されるようになった零和、「労働者保護法」により、執拗に従業員の健康を管理するようになった隷和。

令和だけではなく、どのレイワも苦労が多そうだ。

■痛烈な風刺小説?


読んでいて暗澹とした気持ちになった。その理由は「一歩間違えればどの法律もありそう」と思ってしまったからだし、どの法律も決して私たちの生活を良いものにはしてくれなさそうだからだ。

例えば、第二話の「自家醸造の女」。家庭醸造が奨励されるようになり、女性たちは造酒に精を出すようになる。


「酒の味は家庭の味、女房の味。女に酒を造らせれば、女の正体が分かると昔から言われたもんだ」


どうやら、麗和では料理を作ることだけではなく、酒を造ることも女性の嗜みとなっているようだ。酒造が得意ではない万里子は「市販の酒のほうが美味しいに決まっている」というが、まったくもってその通りだ。餅は餅屋というではないか。

しかし、女性たちは美味しい酒を造ろうと苦心する。それが自分の価値であるかのように。これは酒にたとえられているだけであって、令和の世界でもよくある話である。程よくができない。手抜きをしたら批判される。大っぴらに人と違う言動をすると白い目で見られる。なんて生きづらいのだ、令和。

■考える力を持ちたい


作品の多くで感じられるのは、「ちゃんと自分で考えている?」ということだ。

第5話の「最後のYUKICHI」では現金が廃止され、現金を持っている人と、YUKICHIハンターが戦いを繰り広げる。マネーロンダリング対策のために現金廃止の方向へと向かっていたのだが、そこに感染症予防のため、という文言が加わったという点に令和っぽさも感じる。そういえば、コロナ禍で現金が汚いという話をどこかで耳にした気がする。幸い現金は廃止にならなかったが、電子マネーの普及率は上がった気がする。

誰かの発した言葉で「現金は汚い」と信じ込み、空を舞うYUKICHIから逃げ惑う人々が描かれる場面も。

第4話の「健康なまま死んでくれ」では過労死などによる株価の暴落を防ぐために各会社が必死になって社員の健康管理を行うようになる。が、それは社員を守るためというより、過労死をする前に社員をクビにしようという意味合いのほうが強い。過労死するような労働環境が良くないのはもちろんなのだが、本末転倒の感が強い。人の目を気にするばかりで、目的を見失ってしまっている愚かさも感じられる。


なんとなく、世の中の流れに押されるようにして決まっていった法律や、風潮。そしてそれらに流されて人々が動き出した結果、いびつな形になってしまう世界。ルールを守ることは大事だ。でも、そこで自分で考える行為は手放したくない、と思う。

今回紹介した本は

『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』

新川帆立

集英社

1815円(1650円+消費税10%)

「忙しい人のための3分で読める話題作書評」バックナンバー

みんなで金持ちになれたらどんなにいいだろう。財布にまつわるエトセトラ(『財布は踊る』原田ひ香)

大人びた高校生たちの魅力があふれる青春ミステリ(『栞と嘘の季節』米澤穂信)

未解決事件を巡り奔走する警察、嗤う犯人……事件の悪夢は終わるのか(『リバー』奥田英朗)

映画と小説の世界がリンクし、新たな鈴芽の旅が楽しめる(『すずめの戸締り』新海誠)

嘘がつきたくなるほど大切な友との真実を見つける旅(『嘘つきなふたり』武田綾乃)

たった1週間の旅が女性たちの本音を赤裸々にする(『ペーパー・リリイ』佐原ひかり)

全てを分かり合うことはできない。家族も、夫婦も違う体を生きている。(『かんむり』彩瀬まる)

私もいつか「老害の人」? 人生はやりたいようにやったもの勝ち(『老害の人』内館牧子)

舞台はクイズ番組! クイズを解きながら、謎を解く新感覚小説(『君のクイズ』小川哲)

猛烈に憧れを抱かざるを得ない、まぶしいほどの美しい愛を描いた傑作(『光のとこにいてね』一穂ミチ)

嘘が現実をややこしくする……子どもたちが身を守るためについた嘘とは(『バールの正しい使い方』青本雪平)

祖父と孫娘と、ふたりが紡ぐ人生とミステリー(『名探偵のままでいて』小西マサテル)

こんな法律はイヤだ! パラレル「レイワ」を舞台に描くもしもの世界(『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』新川帆立)

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