黒田官兵衛と信長に叛旗を翻した謀反人の意図とは?
文字数 2,095文字
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今回の話題作
『黒牢城』米澤 穂信読むのにかかる時間:約2分57秒
文・構成:ふくだりょうこ
■POINT
・史実をベースとした謎解きの物語
・官兵衛は戦国時代の名探偵?
・村重はなぜ官兵衛を捕らえたのか
■史実をベースとした謎解きの物語
「――信長なら、殺す。
――ならば、殺さぬ。」
時は戦国時代。舞台は有岡城。
織田信長を裏切り、城に立て籠もった荒木村重は眼前の敵だけではなく、城内で起こる事件にも頭を悩ませていた。
米澤穂信の最新作『黒牢城』。戦国時代の物語ということもあり、歴史小説を連想するかもしれないが、今作にはミステリー要素も加わっている。
有岡城に立て籠もる城主・荒木村重を説得するために訪れたのは小寺官兵衛。後の黒田官兵衛だ。村重は官兵衛の説得を聞き入れない。ならば追い返すか斬るのが当時の作法だったが、村重は官兵衛を有岡城地下の土牢に捕える。
ここまでは多くの人が知る史実の通りであるが、実は有岡城では奇怪な事件が次々と起こり始める。村重はその謎を解こうと試みるが、いつも壁にぶち当たる。頭を抱えた村重が頼ったのは、信頼する家臣たち……ではなく、捕えた官兵衛だった。
■官兵衛は戦国時代の名探偵?
敵はあの織田信長。猛将を討つべく、何よりも城内の士気と自分への信頼感を強めたい村重だったが、頭を悩ませることばかり起きる。
村重を裏切った安部二右衛門。二右衛門の息子・自念を人質にしていた村重は、処刑せずに納戸に閉じ込める。その夜、矢で射殺された自念だが、凶器の矢はなく、雪が積もった庭には足跡もない。そんな密室殺人事件の犯人捜し。
夜襲によって織田方から4つの兜首を上げる。その中のひとつは敵将らしいが誰もその顔を知らないため、誰の手柄となるのか分からない。兜首を上げたのは、高槻衆と雑賀衆がそれぞれ2つずつ。首の特定だけではなく、高槻衆は南蛮宗、雑賀衆は一向宗ということもあり、ここで宗教対立が起こらないよう、村重は気を配らなければならなかった――。
他にも、村重の頭が痛くなる上に、彼の信用に関わる事件が続々と起きる。己だけでは謎が解けない村重は官兵衛のもとに訪れるが、官兵衛もすんなりと答えを教えてやるわけではない。謎解きのヒントを与え、事件解決の糸口を与える。土牢の中で、日に日に体は衰えていく官兵衛だが、生の炎は消えない。助けてくれとも、殺してくれとも請わない。どこかギラつき、野性味が増していく姿は不気味だ。村重には頼れる者が官兵衛しかいなかった。
なぜ敵であるはずの官兵衛が、村重が持ちかける事件の謎解きに協力したのか。
■村重はなぜ官兵衛を捕らえたのか
しかし、実は村重が世の理を曲げたことにひとつの原因があった。
「使者は帰すが定法、帰せぬならば斬るのも武門の定めにござろうが」
有岡城で捕らえられることになった官兵衛はそう言い、最初は必死に「殺せ」と訴える。なぜ官兵衛は生きてとらわれることよりも殺されることを望んだのか。それは当時の“人質”という制度に答えがあった。
戦国時代に武将が約束の保証として送る“人質”。彼らはその武将の近しい肉親であることが多い。官兵衛も自身の息子・松寿丸を織田方に預けていた。自分が有岡城から戻らなければ、信長は官兵衛が寝返ったと判断し、松寿丸を処刑するように命じるだろうと官兵衛は予想していた。
村重は、松寿丸が殺されることを望んでいたわけではない。単純に「信長と逆のことをする」という己のポリシーに従っただけだったのだ。それが吉と出たのか凶と出たのか。張り巡らされた伏線の回収、武将同士のプライドのぶつかり合うラストも見どころのひとつ。
読み終わるころにはきっと、知っていたはずの歴史も、少し違って見えてくるに違いない。