猫はかわいい。それだけでは終われない、猫と人間の人生

文字数 2,337文字

話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!

そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。

ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。

今回の話題作

 『みとりねこ』有川ひろ
この記事の文字数:1,465字

読むのにかかる時間:約2分56秒

文・構成:ふくだりょうこ

■POINT

・7編の猫と人間の物語

・『旅猫リポート』をより深く愛せる外伝

・猫に愛されていると知ることができたならば

■7編の猫と人間の物語

「この世にかわいくない猫はおらん」


全くもってそのとおりである。猫だけじゃなくて、犬もハムスターもうさぎもインコもモルモットも……すべからく誰かに深く愛される動物はみんなかわいい。


有川ひろの最新小説集『みとりねこ』。

舞台化、ラジオドラマ化、映画化などもされた『旅猫リポート』の外伝2本を収録した計7本の猫の物語で構成されている。


猫の島と言われる武富島で出会った猫たち、妻が里帰り出産中に夫がこっそり拾ってきてしまった猫、勝手気ままに生きて自由が好きだった父にばかり懐くやんちゃな猫、猫又になりたかった猫……。

そこには人間から猫へ、猫から人間への愛が描かれていた。

■『旅猫リポート』をより深く愛せる外伝

主人である宮脇悟と暮らすナナ。ひとりと1匹仲良く過ごしていたが、病魔に侵された悟の時間は限られていた。ナナを愛して、引き取ってくれる人を探すために、銀色のワゴンに乗って旅に出る……という『旅猫リポート』。

外伝では、悟が子どものころに飼っていたハチの物語と、ナナとの旅の中で再会した恩師との物語が描かれている。


中学生のころに両親を交通事故で亡くした悟は、それまで兄弟のように暮らしていたハチを別の家族へ託さなければならなくなる。そんな悟をハチ目線で描いている。

新しい家族の中で、悟たちの記憶は薄らいでいく。が、ふとしたときに自分を「どんくさい猫」ではなく「おっとりした猫」と言ってくれていた悟のことを思い出す。

悟が会いに来てくれると聞いたハチは、到着を待ちわびる。それまではずっと家の中で過ごしていたのに、悟が迷子になっているかもしれない、と心配して外で彼の姿を探す。少しずつ、その行動範囲は広がっていって、やがて……。

悟の人生は短かった。その中で彼が出会った悲しい出来事はきっと人より少し多い。それでも悟はずっと優しく、朗らかだった。そんな彼の人柄を2匹の猫を通して知ることができる。悲しい出来事は多かったけれど、彼の人生は決して悲しいものではなかった。

■猫に愛されていると知ることができたならば

人間は猫が何を言っているかはわからない。猫はどうなんだろうか。意思疎通はできているけれど、猫からしてみれば「違うんだよ、わかってないなあ」というところかもしれない。

それでも、不思議なもので、人間が愛を持って接すれば、猫も愛で返してくれる。愛という言葉は出てこないけれど、それぞれの物語には、人間から猫への愛と、猫から人間への愛が描かれている。


愛と共に描かれているのは、「命」についてだ。残念ながら、猫の寿命は人間よりも短い。人間は猫よりも成長するのがずっと遅く、猫は人間より年老いていくのがずっと早い。

表題作の『みとりねこ』では、猫の浩太が一緒に育った人間の弟・浩美をみとりたいと願う。1日でいいから浩美よりも長く生きたい。そうすれば、浩美に自分が死ぬ姿を見せずに済み、浩美を悲しませずに済むから。そのためには猫又になればいい。妖怪だから浩美より長く生きられる。ただ、浩太は普通の猫だった。浩美は大人になり、浩太は年老いた。別れはやがてやって来る。


ペットを飼っている人の多くはこう思うのではないだろうか。

「ずっと一緒にいてね」「死ぬまでそばにいてね」「大好きだよ」

でも、遺していくのもつらい。

人間も猫も命ある中でどれだけ愛を大切にすることができるのか。改めてそんなことを考えてみるきっかけになるかもしれない。

今回紹介した本は……


『みとりねこ

有川ひろ

講談社

1705円(1550円+消費税10%)

「忙しい人のための3分で読める話題作書評」バックナンバー

「推しって一体何?」へのアンサー(『推し、燃ゆ』宇佐見りん)

「多様性」という言葉の危うさ(『正欲』朝井リョウ)

孤独の中で生きた者たちが見つけた希望の光(『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ)

お金大好き女性弁護士が、遺言状の謎に挑む爽快ミステリー(『元彼の遺言状』新川帆立)

2つの選択肢で惑わせる 世にも悪趣味な実験(『スイッチ 悪意の実験』潮谷験)

「ふつう」も「日常」も尊いのだと叫びたい(『エレジーは流れない』三浦しをん)

ゴッホはなぜ死んだのか 知識欲くすぐるミステリー(『リボルバー』原田マハ)

絶望の未来に希望を抱かざるを得ない物語の説得力(『カード師』中村文則)

黒田官兵衛と信長に叛旗を翻した謀反人の意図とは?(『黒牢城』米澤穂信)

恋愛が苦手な人こそ読んでほしい。動物から学ぶ痛快ラブコメ!(『パンダより恋が苦手な私たち』瀬那 和章)

高校の部活を通して報道のあり方を斬る(『ドキュメント』湊かなえ)

現代社会を映す、一人の少女と小さな島の物語(『彼岸花が咲く島』李 琴峰)

画鬼・河鍋暁斎を父にもったひとりの女性の生き様(『星落ちて、なお』澤田瞳子)

ミステリ好きは読むべき? いま最もミステリ愛が詰め込まれた一作(『硝子の塔の殺人』知念実希人

人は人を育てられるのか? 子どもと向き合う大人の苦悩(『まだ人を殺していません』小林由香)

猫はかわいい。それだけでは終われない、猫と人間の人生(『みとりねこ』有川ひろ)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色