ひとりの女が会社を次々と倒産させることは可能なのか?痛快リーガルミステリー
文字数 2,868文字
話題の作品が気になるけど、忙しくて全部は読めない!
そんなあなたに、話題作の中身を3分でご紹介。
ぜひ忙しい毎日にひとときの癒やしを与えてくれる、お気に入りの作品を見つけてください。
今回の話題作
新川帆立『倒産続きの彼女』
この記事の文字数:1,441字
読むのにかかる時間:約2分53秒
■POINT
・女性弁護士たちが倒産に関わる謎に迫る
・どうして倒産するのか、どうすれば倒産を回避できるのか
・自己肯定感が低いヒロイン玉子の成長ストーリー
■女性弁護士たちが倒産に関わる謎に迫る
「私は働きたいんです」
シンプルな言葉が胸を刺す。
新川帆立による『元彼の遺言状』の続編、『倒産続きの彼女』。主人公は前作に続き、山田川村・津々井法律事務所の高飛車な弁護士・剣持麗子……ではなく、彼女の1年後輩の美馬玉子だ。
「不美人で放っておくと彼氏もできず結婚できない自信がある」と自らを評価する玉子。美人でスタイルも良くて、実家はそれなりに金持ちで自由奔放な麗子のそばにいると、自分がみじめになる。だから少し苦手意識を持っていた。
しかし、麗子とコンビを組んで、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理課・近藤まりあの身辺調査をすることになってしまう。
近藤がこれまで勤めてきた会社はいずれも倒産。さらに、彼女の生活は明らかに身の丈に合っていないように見えて……。
調査を進めるうちに麗子と玉子は次第に予想外の出来事に巻き込まれていく。
■どうして倒産するのか、どうすれば倒産を回避できるのか
日々、ニュースを見聞していれば、少なからず「倒産」の2文字は耳にするだろう。
しかし、「どういう状況になれば倒産なのか」また、「倒産を回避できるのか」を知らない人は多いのではないか。そして、そこに弁護士たちがどのように関わってくるのかも。
「会社を倒産に導く女」として通報されたとしても、その女がどんな手口を使ったのかが分からないと防ぐことはできない。そもそも、女性ひとりの力で会社を倒産させられるのだろうか。
玉子と麗子がやりとりしていく中でそういったさまざまな疑問がわかりやすく、自然に解説されていく。読んでいると新たな法律の知識に「へぇ!」の連続だ。
もうひとつ鍵になってくるのは倒産させる動機だ。ひとつの会社を倒産させるだけなのであれば、怨恨の可能性もある。しかし、複数の会社を倒産させる理由とは?
実は、「倒産続きの彼女」には、倒産させたいある理由が存在しており、そこには、現代の労働問題も関わっていた。
■ヒロイン・玉子の成長ストーリー
どう考えても、正反対の麗子と玉子。玉子は麗子に苦手意識を持っているが、麗子はというと意識もしていないだろう。「私は私、他人は他人」を貫いており、周りからどう思われようと気にしない。
玉子は自己肯定感が低いこともあり、人の目を気にしがちだ。早く結婚をしなくっちゃ、と考えており、婚活に精を出し、男性によくみられるために合コンでぶりっこするぐらいお手のものだ。
しかし、本当はそんな自分に嫌気が差している。
家では大好きな祖母のために作り置きをしたり、薬の世話をしたり、介護施設なども視野に入れて貯金をしたり……。もちろん、祖母が強いているわけではない。自分は再婚するから自由にしたらいい、と玉子に発破をかける。
祖母の面倒をみなければ、結婚しなければ、と玉子は自分を縛っていて、自分の道を見失っている。
そんな玉子が麗子と一緒に仕事をしているうちに、少しずつ感化されていく。案件を追っているうちに、玉子自身の環境が変わり、少しずつ考えにも変化が生まれていく。
「私は働きたいんです」
その答えに、どのようにして彼女はたどり着いたのか。
麗子に何か変化があったかどうかは分からないが、剛の麗子と柔の玉子は良いコンビのように思える。
新たな大きな敵も現れ、更なる続刊にも期待が高まる。
「忙しい人のための3分で読める話題作書評」バックナンバー
・「推しって一体何?」へのアンサー(『推し、燃ゆ』宇佐見りん)
・孤独の中で生きた者たちが見つけた希望の光(『52ヘルツのクジラたち』町田そのこ)
・お金大好き女性弁護士が、遺言状の謎に挑む爽快ミステリー(『元彼の遺言状』新川帆立)
・2つの選択肢で惑わせる 世にも悪趣味な実験(『スイッチ 悪意の実験』潮谷験)
・「ふつう」も「日常」も尊いのだと叫びたい(『エレジーは流れない』三浦しをん)
・ゴッホはなぜ死んだのか 知識欲くすぐるミステリー(『リボルバー』原田マハ)
・絶望の未来に希望を抱かざるを得ない物語の説得力(『カード師』中村文則)
・黒田官兵衛と信長に叛旗を翻した謀反人の意図とは?(『黒牢城』米澤穂信)
・恋愛が苦手な人こそ読んでほしい。動物から学ぶ痛快ラブコメ!(『パンダより恋が苦手な私たち』瀬那 和章)
・高校の部活を通して報道のあり方を斬る(『ドキュメント』湊かなえ)
・現代社会を映す、一人の少女と小さな島の物語(『彼岸花が咲く島』李 琴峰)
・画鬼・河鍋暁斎を父にもったひとりの女性の生き様(『星落ちて、なお』澤田瞳子)
・ミステリ好きは読むべき? いま最もミステリ愛が詰め込まれた一作(『硝子の塔の殺人』知念実希人)
・人は人を育てられるのか? 子どもと向き合う大人の苦悩(『まだ人を殺していません』小林由香)
・猫はかわいい。それだけでは終われない、猫と人間の人生(『みとりねこ』有川ひろ)
・指1本で人が殺せる。SNSの誹謗中傷に殺されかけた者の復活。(『死にたがりの君に贈る物語』綾崎隼)
・“悪手”は誰もが指す。指したあとにあなたならどうするのか。(『神の悪手』芦沢央)
・何も信用できなくなる。最悪の読後感をどうとらえるか。(『花束は毒』織守きょうや)
・今だからこそ改めて看護師の仕事について知るべきなのではないか。(『ヴァイタル・サイン』南杏子)
・「らしさ」を押し付けられた私たちに選ぶ権利はないのか(『川のほとりで羽化するぼくら』彩瀬まる)
・さまざまな「寂しさ」が詰まった、優しさと希望が感じられる短編集(『かぞえきれない星の、その次の星』重松清)
・ゾッとする、気分が落ち込む――でも読むのを止められない短編集(『カミサマはそういない』深緑野分)
・社会の問題について改めて問いかける 無戸籍をテーマとしたミステリー作品(『トリカゴ』辻堂ゆめ)
・2つの顔を持つ作品たち 私たちは他人のことを何も知らない(『ばにらさま』山本文緒)
・今を変えなければ未来は変わらない。現代日本の問題をストレートに描く(『夜が明ける』西加奈子)