第98回/フリーランスが定額減税を受けるには

文字数 2,114文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

6月に「給与」という私が遠い昔に失ったナニカを得た人はすでに気づいているかもしれないが、2024年6月から約1年間「定額減税制度」というのがはじまったらしい。


私が無知なだけで、みんなこの制度のことを知っており、バイク&ツルハシで「この6月(とき)」を待っていたのかもしれないが、個人的には、何の説明もなく突然始まったという印象だ。


しかし、この制度に関しては、特に知らなくても問題ない。


6月に「給与」という私が失ったアーキファクトを受け取った人は「いつもより給与が多い」と感じたはずである。


「定額減税制度」は簡単に言えば、税金が減る制度である、何の説明もなく税金を上げたらみんな怒るが、減る分には説明はいならないし、何だったら理由もいらない。


今年から特に理由もなく、消費税という制度がなくなったとしても、誰も怒らないと思うので、恐れずやってみてほしい。


また、この定額減税制度は会社員であれば手続き不要であり、勝手に税金を引いてくれるらしいので、この制度を知らないまま過ごしても損するということはない。


制度として本人手続きが必要か不要かは大きい、自ら手続きした者だけが受けられる制度だと、まずその制度の存在を知る術がない人間が取りこぼされるし、知っていたとしても、手続きをしに行くぐらいなら、減税や給付金の方を諦めるという侍が一定数現れてしまう。


某は裕福ゆえにそのような微々たる施しは不要、というわけではない。むしろその面倒くさがりかつ、致命的事務処理能力のなさゆえに、どちらかというと困窮している侍の方が多い。


だが、それでも自力で書類提出だけはできない、というラストサムライがこの世にはまだいるのだ。


つまり自己申請が必要な救済制度は「助けが必要な人間にこそ助けが届いてない」という矛盾が起こりがちであり、制度として不完全かつ不親切である。


それに比べれば、定額減税制度は、政策として妥当かどうかは別として、まだ親切な方なのだが、親切なのは会社員に対してだけだ。


フリーランスが定額減税制度を受けようと思ったら、予定納税者以外は確定申告が必要である。


さらに予定納税者も後述の配偶者や扶養家族の減額を受けようと思ったら、自ら申請しなければいけないらしい。


つまり「事務ができない奴ほどフリーランスになりがちなのに、フリーランスの方が会社員より高度な事務を求められる」という矛盾はこの制度でも健在だ。

ともかく会社員は基本的に何もしなくても勝手に減税されるので、定額減税制度の仕組みまで詳しく知る必要はないのだが「現在の給与は平時より手取りが多くなっており、約一年で戻る」ということだけは覚えておいた方がいい。


さもなくば1年後に「急に税金がすごく高くなっている」とXで騒いで、「学力低下もここまできた」みたいなリプをつけられる羽目になる。


制度を知らなくても、手取りが増えている時点で何かに気づくだろうと思うかもしれないが、人間もらえる金が増えていることに関しては、何の疑問も持たずに受け入れてしまいがちだし、会社員の中にも給与明細を見ないタイプの侍がいる。


具体的にどの程度減税されるのか、というと所得税が3万円、住民税が1万円、控除されるようだ。

さらに、同一家計の配偶者や扶養家族も対象になるらしい。


つまり妻と子供が一人いれば、所得税が9万、住民税が3万の合計12万が減税されるということだ、これは大きい。


しかし、毎月9万も所得税を納めている人間は、そこまでいないのではないか。減税しきれない分は土に還るというのなら、そもそも低所得で税金額が少ない、救済優先順位が高い人間ほど恩恵がない制度になってしまうのではないか。


だが、どうやら減税しきれなかった場合は、その分を調整給付金としてもらえるらしい。


ただ、これがいつもらえるかについては「お住まいの市区町村の確認ができ次第なるはやで」と急に歯切れが悪くなる。


そして支給方法だが、なるはやで市区町村から給付金に関する「確認書」が送られてくるので、必要事項を記入し「返信」しろとのことだ。


少なくとも会社員であれば、手続きしなくても勝手に減税してくれるからまだ親切と言ったが前言撤回だ。

給付の段階になって、まさかのコロナ給付金と同じ「返信した奴だけもらえる制」の再来である。


おそらく、真面目に生きている方の多くが「これができないような奴はもう救わなくていい」と思ってしまうだろう。


しかし、いつ自分がそういう「いまいち救う気が起きない弱者」になるかわからないのだ。自分の将来のために、救う人間を選別してはならない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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