第94回/ふるさと納税やるやる詐欺

文字数 2,061文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

「今年こそふるさと納税やろうと思う」と夫に抱負を述べたところ、「やらないであろう」と、人のやる気を削ぐ、毒親のような所感を述べて来た。


どうやら私は毎年ふるさと納税をやると言ってやらない、ふるさと納税やるやる詐欺の常習だったようだ。

しかし、この詐欺は、やればやるほど詐欺をしている方が損をするシステムである。


実際、今現在まだふるさと納税を行ってはいない。

トイレットペーパーなどの生活必需品を頼もうとは思っているのだが、これらは必需な上に急務で必要な場合も多いのだ。

ふるさと納税の返礼品は、すぐに届くわけではないらしい。


地方の名産品とかであれば、忘れたころに届くぐらいがちょうどいいだろう。

しかしトイレットペーパーが届くのを数か月便所で待っていたら、むしろこちらの存在が世間に忘れられ、そのままトイレの怪異になってしまう。


よってふるさと納税をやっている人は、良い肉など、いつもは買えないようなものをせっかくだから頼んでいるという印象だ。

そして私のように、いつもは金銭欲や物欲にまみれているくせに、いざ欲しい物を選べと言われたら「特にないもない」という虚無が広がっている人間は、最終的にトイレットペーパーという最果てに辿りつき「半年後にこれが届いてもな」と、ふるさと納税自体を断念してしまうのかもしれない。


私がふるさと納税やるやる詐欺の常習なのは、毎年この行き止まりにたどり着いてしまっているからだろう。

ふるさと納税をやらない人間は、情弱や面倒くさがり、というより未来に小さな希望すら抱けぬほど絶望しきっているのが原因のような気がしてきた。


しかし「せっかくなら、いつもは手が出せない有名なこれを頼んでみよう」という動機でふるさと納税を選ぶ人間が多いということは、有名な名産を持っている自治体ほど強いということだ。


実際、三重県で一番ふるさと納税の寄付が多いのは松坂市で、寄付者の9割が松坂牛を返礼品に選んでいるという。

逆にこれといった返礼品を出せない自治体は、寄付を集められないということだ。

三重県ワーストの東員町は松坂市が2022年14億もの寄付を集めているのに対し、19件で100万円程度しか寄付が集まらなかったらしい。

さらにふるさと納税により、東員町の住民すら地元に支払うはずだった税を松坂市に寄付している可能性すらある。


税収の格差を是正するためにはじめたはずのふるさと納税だが、大した返礼品を用意できない魅力ゼロ地帯はむしろ税金が他の自治体に流出する事態となっており、東員町長も「地方自治を滅ぼす悪法」と、怒りを露わにしていたようだ。


ちなみに東員町の返礼品を楽天で調べたところ、松坂市が200種類近い松坂牛商品を用意しているのに対し、一押し商品が「こんにゃくうどん」さらに「のり」など、かなり渋いラインナップだ。

むしろ松坂牛を無視して東員町に寄付した19件に選んだ決め手をうかがいたい。


このように、地方応援という趣旨をはずれ、強い品を出せる強い自治体がさらに金を集める返礼品バトルと化してきたため、返礼品に関して規制が入ったが、それすら潜り抜けようとするゴッサムシティが多かったのか、2023年にさらに規制強化がされたようだ。


つまり利用者側からすれば寄付額が上がったり返礼品の質が落ちたりと、ふるさと納税はどんどん改悪されているということである。

規制前の無法地帯時代にやっていればもっと得ができたのに惜しいことをした。


ちなみに、まだふるさと納税をやっていないのは、時期尚早だからというのもある。

ふるさと納税にも当然「限度額」が存在し、それ以上寄付しても無意味であり、むしろ損だからだ。

この限度額はその年の収入によって決まる。

会社員であれば、去年と大体同じと考えておけば良いだろうが、フリーランスの場合現時点では全く予想がつかず、今下手に注文をすると限度額を超えてしまう可能性がある。


一番安全なのは、ほぼその年の収入が確定している年末になってからの注文だ。

しかし同じことを考える人間が多いせいか、年末はふるさと納税のサイトが激重になり、最悪注文できないまま年が明けてしまうこともあるらしいので、ギリギリを狙いすぎるのもよくない。


私もやるなら年末だと思っているが、おそらくそのまま忘れてしまいそうな気もする。


何かをやる気になっている時に「どうせやらないだろ」と言われるのは遺憾だが、そう言われる人間は言われるだけの理由と前科があるのだ。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

「寝そべり錬金術」は毎週【金】曜日12時ごろ更新!

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色