第93回/メジャーな税金対策といえばふるさと納税…のはず

文字数 2,305文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

私には春になると「税金が高い」と鳴きはじめる習性があり、実質ウグイスと言ってもいい。


しかし、鳴かないことで殺されそうになるウグイスに対し、こっちは信長だけではなく、秀吉や家康にすら「うるさいから殺す」と言われかねない。


こちらとしても、毎年こんな鳴き声を発したくないと思っているが、税金に関しては担当税理士も「諦めろ」とガンジー級の無抵抗主義になってしまっているため、こちらも諾々と支払うしななかった。


だが、最近、漫画家を複数顧客として抱える会計士の人と話す機会があり、そこで「よほど収入がある作家でなければ還付になる場合が多い」という話になった。


だとしたら、よほどの収入がないのに、ほとんど還付になったことがない私は何なのか、何か根本的な間違いを犯してしまっているのではないか。


しかし、私にアシスタントがおらず、件費がゼロであると判明した瞬間、その会計士も諦メロンという態度になってきたので、どうやら税金に関しては本格的に諦めなければならないようである。


間違いがあったとすれば、社会不適合者がなる職業の筆頭に挙げられがちな漫画家ですら、アシスタントと仕事をすることは可能な場合が多いのに、それすらできないコミュニケーション能力で人間に生まれたのが間違いである。


漫画家といえば「FANZA費を資料代にできるか否か」みたいなところで揉めている印象があるが、やはり一番高額な経費は人件費であり、それがゼロだと厳しいようである。


「この男根の修正はお母さんに入れさせている」など、身内に手伝ってもらっている体で人件費を挙げることは可能だが、あまりに高額だと怪しまれるし、今度はお母さんが税金を払うことになってしまう。


お母さんが破天荒なタイプでお父さんが6人おり、全員に少額ずつ仕事をしてもらっていると言い張ることもできるが、人件費水増しで告発された漫画家も普通にいると思うので、無茶はあまりできない。


他にもフリーランスができる節税対策は軒並みやっているので、税金については本当に万策尽きていると言えるが、唯一メジャーな税金対策でやったことがないのが「ふるさと納税」である。


ふるさと納税は、正確には節税や減税というわけではないが、どうせ払うならその分返礼品を貰った方が得、という制度である。


また本来なら居住している地域に支払う市県民税の納め先を自分で選択することが可能になる。


これがメリットかどうかは人によるところだが、税金の使い道を選べないなら、せめてどこに収めるかは自分で決める、という納税強火派には嬉しいシステムと言えるかもしれない。


私は市県民税の中には「地元ディスり料」が含まれていると思っているし、むしろそれが返礼品だと考えているので、それがはく奪されるぐらいなら今まで通り地元に払う。


また、ふるさと納税には2000円の自己負担額がかかるが、これは年間の自己負担額であり、ふるさと納税の品をいつく頼んでも2000円である。


返礼の品に2000円の価値もなければ逆に損しているが、返礼品に「地元で捕れた新鮮なゴミ」などを設定している自治体はあまりないだろう。


税金が減るというわけではないが、日用品など生活必需品をふるさと納税で頼めば、その分生活費を減らすことができるのだ。


栄養は光合成で取れるし、ケツも手で拭いているという物を一切必要としない、SDGsの成れの果てみたいな人間でなければ、やらない理由が特に見当たらない制度らしい。


そんな制度をなぜ今まで使用しなかったかというと、「気分の問題」としか言いようがない。


私はこう見えてケツを紙で拭いている勢なので、トイレットペーパーをふるさと納税で頼もうと思ったことはあるし、トイレットペーパーを返礼品にしている自治体は意外と多く、想像以上にこの国にはケツを紙で拭く派がいることを物語っている。


金額はまちまちだが、私がいつも購入しているトイレットペーパー8パックを16,000円で出している自治体がある。


ちなみに同じ物をアマゾソで買ったら4,500円である。


16,000円はどうせ今後支払わなければ税金なので、ぼったくられているわけではない、むしろ4500円の品が手に入っている時点で、負担額の2,000円はすでにカバーしてプラスである。


しかし私があまりにも数字に弱いため、その理屈を何度も説明され、理解した上で「でも4,500円のものに16,000円払うのはおかしくないか」と思ってしまうのだ。


そうしている間に年が明け、結局毎年実費でケツを拭いた上に、春になったら「税金が高い」と鳴くことになっているのである。


トイレットペーパーだけでなく、大体の返礼品は普通に買うより高く設定されているが、これが損ではなく得であると、頭ではわかっているがケツがついてきていないという状態が何年も続いている。


また、得を感じるのがすぐではなく、確定申告をする段階になってからというのも気分的に影響しているのかもしれない。


今年こそ、目先の数字ではなく長期的な目論見でケツを拭いていきたいところである。


カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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