第92回/歴史的円安だが…FXはやめたほうがいいタイプの話

文字数 2,479文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

GW中に円が稀に見る弱体化をしてしまったため、日本からドル圏に旅行した者は1杯3千円するラーメンの前で長考したり、それを見越して日本からサトゥーのごはんを持ち込むなど、食に対しては完全に「捨て」の姿勢を取ったりと大変だったようだ。


対してドル圏から日本にきた観光客は、コミケにきた俺たちのように、値段を見ずに買い物を楽しんでいたようで、明暗がはっきり分かれてしまっている。


コントラストが強めになっているのは客側だけではない。

観光地や外国人客を相手にしている店はかなり潤ったようだが、原料を海外に頼っている企業かなり厳しいようである。


もはやどうしていいかわからず客側に「値上げしていいか?」とアンケートを取る店も出ているらしい。

いいかと聞かれて「いいよ」と答えるレスポンス最高な客は皆無な気がするが、そのぐらい困っているということだ。ちなみに値上げした分セールを増やすなどで補填を考えているらしい。


このように、いくら円を貯めたところで、円がジンバブエドル化したら、我々は軽トラに円を積んでイオソに買い物に行くことになるし、札束風呂も1ドルの価値すらないので、開運ブレスレットも売れなくなってしまう。そしてブレスレットの値段も二兆円だ。


そんな時に備え「外貨」を持とうという話は昔からよく聞く。


未だに「有り金全部溶かシステム」としか認識しておらず、その仕組みがわかっていない「FX」も「外国為替証拠金取引」といい、外貨を売ったり買ったりすることらしい。


FXはギャンブルというイメージがあったが、これもれっきとした投資の一種だそうだ。


ならば何故FXで破滅してバナナウンコパクパクしている人が現れるのか、というとFXは持ち金以上の投資が出来てしまうらしい。


つまり100円しか持ってないのに、借りてきた金で1万円分投資などができてしまうのだ。

投資というのは投資した金額が多いほどリターンが多くなるが、その分損失も大きくなる、さらに投資したのが借りた金ならなおさらだ。


この午前二時今ない金を使おうとするバンブオブ手法はレバレッジといい、これさえやらなければFXで有り金を溶かすことはあっても、借金まで背負うことはないようだ。


しかしレバレッジで一攫千金を狙えるのがFXの魅力であり、リスクも取れない甘蔵は投信でママのオルカンでも吸ってろということだろう。


つまり、FXも投資の一種だが、ハイリスクハイリターンなため、ギャンブルと同一視されることが多い、ということだ。


他に外貨といえば、普通に「外貨預金」や「外貨積立」というのがある。

普通の定期積立のように、円の代わりに外貨を積み立てていく貯金である。

現在日本の銀行預金の利子は鼻くそみたいなものだが、外貨であれば日本より高い金利が見込めるし、今のような円安になれば大きな利益になる。

それと同じ理屈で外貨建ての保険というものもあり、払い込んだ保険料が外貨で運用され円より高い利率を見込めるという。


しかし、外貨保険に関してはあまりお勧めされていないようである。

まず、為替リスクがある。


ドル建てしていれば現状儲かっているといるが、私のトルコリラが現在半額以下になっているように、もしトルコリラ建てしていたら大損になっているということだ。


また外貨建て保険は、そもそも保険会社に支払う手数料が高く、保険としての補償内容はあってないようなもので、さらに最終的に日本円に戻すにも手数料がかかるなど、元々のコストが高い傾向があるようだ。

つまり、損をするとは言い切れないが、どうせ投資目的ならもっとマシな方法があるだろう、ということらしい。


「為替が今後どう動くか、なんもわからん」という時点で外貨には大きなリスクがあるが、他の投資同様、外貨も長期投資でリスクは減らすことができる。


私のトルコリラが半額になっているのも、一気に10万円分買ってしまったからである。

もしこれを月1万、10か月で購入していれば、今頃4万ぐらいの損失で済んでいたのではないかと思われる。


結局外貨でも円でも、一番リスクが低いのは積立による長期投資ということだ。


おそらく、FXはそれとは真逆の世界であり、一分一秒の判断が重要になってくるのだろう。

FXをやる人曰く、FXは「損切り」ができない人はやめた方がいいという。


損切りとはマイナスが出た時点で、これ以上マイナスが出る前に手放し、損失を最小限に抑えることだ。

私のトルコリラもマイナスが1万の時点で手放せば、損失1万で済んだが、頑なに持ち続けたため、現在5万2千円までマイナスが広がっている。

この場合、例えトルコが崩壊したとしても、元々あった10万が0になるだけで終了だが、レバレッジをかけたFXはそういうぬるい世界ではないのだろう。


しかし、損を瞬時に受け入れて切る、というのは簡単なことではない。

現にトルコリラも「待っていればいつかは上がる」と思って持ち続けている。


これは呪術廻戦で、東堂葵が真人に触られた左手首を瞬時に切り落としたぐらい難しい。

冷静に考えれば左手がなくなるというのは大ごとである、しかし、そうしなければ、そこで死んでワンチャン全滅もありえたのだ。

だが、瞬時に「左手はなかったことにして切り替えて行こう」とはなかなか思えないだろう。


そうやって迷っている内に、無為転変により、爆散していく者が後を絶たないのがFXということだ。

私は確実に面白い形に変形したあとに爆発するタイプなので、FXには手を出さない方がいいだろう。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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