第89回/第89回/脱・現金生活挑戦中!…はたして。

文字数 2,536文字

 稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

家計簿アプリを使っているのだが、現金の出入りだけはアプリで把握できないので、イマイチ正確さに欠けるという状態が数年続いていた。


ただ、把握できていないのは支出のみである、今のご時世、日雇い労働などでなければ現金手渡し、ということはなかなかないからだ。

報酬は大体銀行振り込みなので、それはアプリが自動集計してくれている。

もし取引先が、支払は現ナマで言い出したら早晩倒産の危険性があるし、新入社員がしばらく給与は現金手渡しでと言ってきたら、5年以内で反社に所属していた可能性がある。


だが、クレカなどと違い、銀行口座の開設を断られるというケースはほとんどないそうだ。

断られるケースとしては、前述の通り反社所属、または口座が犯罪に使われたことがある人もダメらしい。


当たり前と思うかもしれないが、これは自分が被害者でもダメな場合があるらしい。


自分名義の口座が知らない内に「トヨタ ヨネジ 2,000,000」など、知らない老人からジャンジャン入金が来る、詐欺の振込先などに使われていたというケースもある。

本当に何も知らなかったとしても、詐欺に関与したということになり、反社と同じ扱い受けるかもしれない、ということだ。


ともかく、現金さえ使わなければ支出もアプリで自動で把握できるということなので、もはや何回目かわからないが、現在再び脱現金生活に挑戦中である。


実際、今日び現金のみという店はかなり減ってきており、フードトラックすらペイ対応してきている。

逆に未だに現金にしか対応していないものは何なのか調べてみたところ「現金のみ うざい」とサジェストされてきた。

もはや、現金のみは不便を越えて憎悪の対象にすらなっているようだ。


そんな一刻も早く滅びて欲しいと思われているのは何かというと、切手や印紙、金券、年金や税金、コピー代などが例に挙げられているが、年金はクレカで払えるようになったし、税金のクレカ対応をはじめる自治体もあり、少なくとも口座引き落としはできるので、いよいよ紙や金属による現物手渡しでしか支払う方法がないものは絶滅しつつあるのかもしれない。


逆に現金非対応の店も現れているのでは、と思って調べたところ、数年前、京都に「現金お断り」の店ができたというニュースが出て来た。

一瞬「さすが京都はん!」と思ったが、京都は関係ない、完全な偏見だ。


しかし、現金非対応の店はまだ少ないようである、おそらくキャッシュレス決済のみにするとレジ前に「今ペイを使えるであろう息子を呼んでいる」という老や「ペイ貸してくれる人」というスケッチブックをもったヒッチペイカーたまって、却って店の負担になるからだろう。


ともかく、現金のみの場所は減ってきているので、あとは自分が「俺は親を英世と一葉、そして諭吉に殺された」という強い意志を持って、いかに現金を使わないようにするかにかかっているということだ。

ちなみに、親の仇メンバーは、今年7月から、柴三郎、栄一、そして梅子になるので、間違って英世たちを襲撃しないようにしよう。


逆に使う側として未だに現金のみの理由は「現金に慣れているから」「切り替えるのが面倒」などの惰性がほとんどであり「強火の一葉担だから」や「燕子花図推し」などの信念をもって現金を使っているのは少数派のようだ。


ただ「現金の方が管理が簡単だから」という理由も根強く、特に私の親世代などは、現金払いしか信用しておらず、未だにクレカ払いなど借金も同然と思っていたりする。


実際、クレカは未来の金を借りて買い物をしていると言えるし、大体キャッシング機能もついているので、その認識もある意味間違いではない。

その危険性ゆえに、未成年者や諸事情で著しく信用に欠ける人は、ハナからクレカを作ることができないこともある。

アウトローラッパーにすら「俺はシャブとリボだけはやらねえ」と、ライムしてそうでしてないことを言われているらしい悪名高きリボ払いですら、そもそもクレカが作れなければ使用できないのである。

リボを使う人間はマネーリテラシー最底辺というイメージがあるかもしれないが、クレカを作れている時点でまだまだだと思ってほしい。


逆に言えばクレカの審査が通らないことで、金融事故を未然に防いでもらっているとも言えるが、最近「後払い」という決済方法が現れて問題になっているらしい。


後払いとは、商品を先に購入、受取りし、代金を後で払うという決済方法である。

ほぼクレカと同じシステムであり、クレカと何が違うかというと「クレカ不要」という点が違う。


ノーパン喫茶の説明に「※パンツを履いてません」と書いてあったかのような当たり前感を感じるかもしれないが、これは大きな違いだし、パンツを履かないのは客側の可能性もある。


クレカ不要ということは、クレカを作る時に必要な、年齢、職業、身分証明などが不要ということであり、クレカを持っちゃダメなタイプも実質クレカを持っているかのように買い物ができてしまうのだ。


そういうタイプの大人は、クレカが持てなくても、消費者金融やウツヅマくんのところに行くので大差ないが、後払いには未成年でも使えてしまうという問題があり、実際子どもが勝手に後払いで買い物していたというトラブルも起こっているようだ。


親に隠れて払うあてのない後払いをする子供がいる一方で、最近は日本でも、早くから金の勉強をさせておこうという機運が高まり、子どもに投資をやらせてみる親もいるらしい。


マネーリテラシー格差は開くばかりだが、多分私は前者になっていたと思う。


親の財布からこっそり500円抜くぐらいしかできない時代に生まれて良かった。


カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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