第99回／噂の栄一、梅子、柴三郎にもう会った？

7月3日に新紙幣の流通が始まったようだが、私はまだ出会っていない。

むしろ新紙幣が始まってから家の外に出ていないため、新しい出会いはコバエぐらいしか期待できないのだが、そちらのマッチングは「好調」とお伝えしておこう。

では家の外に出ている人の間で、新紙幣が盛り上がっているかというと、「そうでもない」印象だ。

ただし私がいう「外に出ている人情報」も、X産なので全くあてにならない。産地としてXほど信用ならないものはないので、「MADE IN X」のものは基本的に手に取らない方がいい。

よって、私が知らないだけで、家の外ではすでに栄一の束による顔面の殴り合いが勃発しているのかもしれない。

しかし、日本とて、とっくの昔にアメックスブラックで相手の頸動脈を切ったり、残高が15万入ったペイを見せてコンビニバイトを慄かせる時代に突入しているのだ。

つまり、現金使用頻度は激減しており、むしろ何故その流れに逆らって今新紙幣を作ったのかと、みんなが疑問に思っている。

紙幣を刷新する理由は、まず「偽造の防止」だそうだ。

今どき偽札を作る奴がいるのかと思うが、今でも祭のたびに500円玉を名乗る500ウォンが飛び交ったりしているので、紙幣の偽造も未だなくならないのだろう。

むしろ、キャッシュレス化で現金を目にする機会が減っている今の方が、偽札だと気づかれにくい可能性すらある。

つまり、ほとんどの人間が新紙幣を見慣れていない今こそが最大の偽札チャンスともいえるが、今大量の栄一で買い物しようとしている奴が現れたら確実に怪しまれるだろう。そのぐらい「早速新紙幣を手に入れた」という人は少なく、大半が「出会いの機会を待つ」という、婚期を逃す奴みたいなことをいっている状態だ。

確かに焦って新紙幣を入手する必要は特にない。

今、ATMに行けば虹回転で栄一が登場、おまけで柴三郎が一人ついてきて、低確率で梅子召喚というキャンペーン中なら別だが、いくら現時点で新紙幣が珍しいといっても、その価値は額面通りであり、それ以上でも以下でもない。

結局我々が紙幣や通貨に求めているのは、デザインではなくその価値である。

新紙幣のデザインがあまりにダサくて泣いている人もいるが「かわいそうに、このダサ坊があなたのダサい新紙幣をすべて引き取りましょう」といったら、なぜか泣き止んで去っていく。

しかし、今回の新紙幣への刷新は、デザインを「ユニバーサルデザイン」にする目的もあったようだ。

従来の紙幣は漢数字が用いられている。アラビア数字も書かれてはいるが、一番でかく書かれているのは漢数字だ。

円を使い慣れている人間であれば、数字を見て確認せずとも、色や大きさ、最悪描かれている人物を見ればそれが何円札かわかるし、「財布に英世より上を入れた覚えがない」という見ずとも消去法で答えを導くことさえできる。

しかし、今の日本には、外国人など日本円に慣れていない人も多く訪れる。

我々が洋画の登場人物をなかなか判別できないように、外国人が紙幣をすぐ顔判定できるとは思えないし、それよりはまず数字を見るはずだ。

さらにそこに判読不能な漢数字が書かれているのである。

一瞬で日本の侘び寂び、そして不便、最終的に怒りを外国人に与えるグッドデザインともいえるが、不親切なのは確かである。

よって、アラビア数字が大きく書かれた新紙幣に刷新され、これこそが我々が感じる気持ち悪さの最大要因になっていると思われるが、その内慣れるだろう。

だが、そもそも現金の使用頻度が激減しているのだ。

特に旅行客であれば、いちいち使いなれない異国の金を「ディス？それともコレ？」とレジ前でブチまけて会計するより、大体どこでも使えるクレカなどを使用するだろう。

確かに現金が全く不要というわけではなく、キャッシュレス未到達の秘境を旅するなら必須だが、栄一と梅子が同一人物に見えるレベルの日本初心者は、そういう場所に行かない方が良い。

紙幣のユニバーサルデザイン化は不必要とはいえないが、今急いでやるべきこととも思えないので、結局「新紙幣を作ることで、特定の個人や企業が大儲けしているのでは」という、いつもの疑念を国民に与えてしまっている。

どちらかというと、秘境の民である私ですら現金の使用頻度はかなり減っているし、「現金の入手」となればもはや皆無のレベルだ。

柴三郎や梅子の召喚はおつりという形であり得るが、おつりにしても元となる栄一、もしくは諭吉の存在が不可欠となる。

しかし、現金で栄一や諭吉を引き出すこと自体、もはや稀なのである。

新紙幣との出会いは、こちらが思った以上の先になりそうだ。よって何の理由もなく私に新紙幣をくれる人を急募するしかない。