第96回/ふるさと納税人気返礼品にみる景気感

文字数 2,094文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

先日Xで「ふるさと納税は税制としては邪知暴虐としか言いようがない悪法の極みだが、使う側にとってはメリットしかないため、我々の倫理が試されている」というようなつぶやきを見かけた。


そもそもふるさと納税は、故郷や世話になった地域の力となり、税や地域について今一度考えるために作られた制度だという。


しかし「故郷の力となり税に思いを馳せるためにふるさと納税をやっている」というのは「風呂に入りにソープに来た」と言っているのと同じである。


本来の目的が、風呂場で偶然居合わせた人間と不慮の合体事故を起こすことだと誰もが知っているように、ふるさと納税も目的が返礼品になっていることは誰の目にも明らかである。地域貢献どころか、高級な動物の死骸欲しさに、居住地域への税金を、縁もゆかりもない、動物の死骸に自信村に流出させる裏切り行為にしかなっていない、というのが現状らしい。


自分の推し地域に寄付したい、という人もゼロではないだろうが、罠に引っかかっていたところを栃木に助けてもらったなど、寄付したいほど特定の地域に恩や思い入れがあるという人はそんなにいないだろうし、私のように地元を離れたことがない人間ならなおさらだろう。


つまり私にとってふるさと納税は、生まれ故郷であり40年以上居住させてもらった土地への裏切り行為でしかないということだ。


しかし昨年、税制を考える側である政治家の方々が、4000万以下なら不起訴、図書費3500万、納税は個人の判断など「税に対して倫理観を持つ必要はない」と率先して示してくれたところである。


税が流出すると言っても、元々の納税額が残尿レベルなので、自治体にとってはそれが便器をそれた程度の被害でしかないような気もするし、どこに納まろうが納税していることには変わりないので脱税の大便ぶりに比べれば、ふるさと納税の残尿飛散などキレイな方だ。


前にも書いたが、ふるさと納税の限度額はその年の収入で変わるため、現時点では残尿量が正確にわからず、今下手に注文すると限度を超えて漏れるおそれがあるため、まだ我慢している段階だ。


しかし我慢しすぎると年を越してしまい、全尿漏らすことになる。忘れないように注意が必要だ。


よって今はふるさと納税のカタログだけを眺めている状態だ。


世の裏切り者たちは、市区町村民としての魂と引き換えに何を手に入れているのか、楽天のふるさと納税サイトで人気の返礼品を調べてみた。


現在の楽天ふるさと納税総合トップは北海道の「ほたて貝柱」である。


正直少し意外だ。そこまで日本国民が、どうせ納税するならほたて貝柱が欲しいと思っているとは思わなかった。


しかし、意外だからこそ「せっかくだからいつもは買わないものを頼もう」というふるさと納税の心理戦を制しているのかもしれない。


だが2位につけているのは、いきなり「米」である。


米は日本の食卓において必要不可欠なので、とりあえず米を所望する人が多いのは納得だが、だとしたらなおさら、米を制してホタテがトップになっているのが不可解だ。


私が知らないだけで日本の主食は、米、パン、ホタテになったのだろうか、ホタテ自体にはそんなに味がなさそうなので、ありえなくはない。


さらに5位にも1位とは違う地域のホタテが入っているので、ますますホタテ主食説が濃厚になってきた。

他にはウナギや鮭など、1位から5位までは食べ物が占めているが、6位に我らが「トイレットペーパー」が堂々ランクインである。


日本には、求めることも求められることもなく、それでもケツは拭かなければいけないという虚無になっている者がかなり多いようで、上位100位の中にトイレットペーパーが何個も入っている。


同様に「箱ティッシュ」も人気であり、ケツと涙をふくだけの人生になっている奴がそれだけ多いのだろう。


おそらくふるさと納税の人気商品は、世相を表しており、好景気と不景気の時では人気商品がかなり変わってくると思われる。


現在は物価高でどこの家庭も苦しいため、食べる機会がないご馳走より、米やトイレットペーパーなど、まず生活必需品を確保したいという人の方が多いのではないだろうか。


そうなると、ますますほたて貝柱人気が不可解になってくるが、景気に左右されないちょうど中間地点にほたてがあるのかもしれない。


今のふるさと納税の人気商品はどうみても不景気感がぬぐえない。


このランキングが「割り箸ぐらいの面積しかないラメ下着」など、実用性ゼロの浮かれた商品のみになってはじめて「景気が回復した」と言えるだろう。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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