第97回/ふるさと納税返礼品を選ぶ基準とは

文字数 2,199文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!


前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!


お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅がつづく。

先日、楽天のふるさと納税の暫定一位が「ほたて貝柱」であったことに驚いた。


しかし、たまたま前澤友作が自分のふるさと納税限度額をほたてに全振りした直後だった可能性もある。


そう思って今一度見に行ったがやはり、現在も1位はほたて貝柱なので、この国のほたて人気を侮っていたとしかいいようがない。


だが、もしかしたら「還元率」の高さで見た時、ほたて貝柱が一番得なため人気という可能性もある。


調べてみたところ、実際ほたて貝柱は高還元率のようだ。


しかし還元率が高いという理由だけで、他の好物を差し置いて好きでもないほたてを頼む奴ばかりとも考えづらい。還元率と好み、両方考慮した結果、ほたてが最適解になる人が多いのかもしれない。


同じく魚介では、エビやカニよりも「鮭」や「鰻」が多く上位に挙がっているのも、還元率が関係しているのかもしれない。


みんなが好みだけではなく、還元率まで考慮して返礼品を選んでいるとしたら、思った以上にふるさと納税はガチな世界である。何も考えずに自分の好きな食べ物選んでいるような肥満児精神では、生き残れそうにない。


しかし、海鮮部門がジャイアントキリング連発なのに対して、肉部門はやはり牛肉が強い。ただし地鶏や、ドングリしか食わせてもらってなさそうな高級ポークもランクインしている。


そして忘れていたが「果物」も選択肢の一つだ。


私は、みかんと見れば無慈悲に凍らせる冷徹な冷凍みかん製造機として一部で知られているが、正直果物に対する温度は低い方である。


もらえば食べるが、わざわざ自分で買ったりはしない、だが年をとり、そろそろ甘味は果物ぐらいがちょうどいいのではないか、と思い始めた。


しかし「果物は下手な菓子より糖分が高い」というのは何十年も前から言われていることであり、果物は甘くなる一方だ。もはや「果物はヘルシー」というのは、アメリカ人が「フライドポテトはサラダ」と言い張るレベルの冗談になりつつあるような気がする。


野菜ジュースも飲みやすくするために甘くしてあるので、毎日飲んだ結果、糖尿になったという話すらある。だったら最初からファソタグレープを毎日飲めば良かった。


そんな果物界で人気なのが「シャインマスカット」である。


確かに「せっかくだから」という動機で頼みたくなる食べ物部門であれば、シャインマスカットはナンバー1でもおかしくない実力者だ。


何せ名前が「シャイン」である、芸名であっても「シャイン」と名乗るには勇気がいる、相当味に自信がなければ、シャインとは名づけられなかっただろう。


おそらくスーパーとかでも売っているだろうが、他のフルーツに比べたらかなり高額なはずである。「こんな機会」でもなければわざわざ買わないものの筆頭と言える。


同じような理由でか「マンゴー」も人気である。あまり普段使いされないフルーツが、果物界では人気のようだ。


そういえば、私はふるさと納税やるやる詐欺常習なのに対し、実家の兄はすでにふるさと納税をやっているらしい。


兄は会社員なのだが、会社員であれば「ワンストップ制度」というのがあり、これを利用すれば確定申告の面倒がないそうだ、ふるさと納税まで会社員優遇とは、ある意味ブレがなくて清々しい。


兄が選んだ返礼品は奇しくも果物であり、その一部を我が家に分けてくれた。


シャインマスカットを3粒もらったわけではない、それだと我が家は二人家族なので殴り合いが起きる。


兄が選んだ返礼品は「みかん」であり、それが段ボールひと箱届いたらしく、我が家もビニール袋いっぱいに分けてもらったのだ。


その当時は疑問に思わなかったが、そうそうたる返礼品ラインナップを眺めている今、なぜこの中から兄が「みかん」という超絶普段使いフルーツを選んだのか、今更疑問に思えて来た。


だがこれは「米」を選ぶ人と同じ観点なのかもしれない、米も普段食っているものであり、珍しさはない。


だがコシヒカリなど、いつも食ってる物のちょっといいバージョンをふるさと納税で頼む人は結構多いのだ。


しかし、一緒に暮らしていた時、兄がみかんを米レベルに常食していたという記憶もない。


もしかしたら、兄は親や祖母と同居しているので、家族全員が食べられるものというテーマで選んだのかもしれない、みかんなら全員平均的に好きだし、老でも食える。


そして「おすそ分け」も可能だ。

私はおすそ分けどころか「独り占め」の勢いで返礼品を選ぼうとしているが、兄を倣って食べ物なら夫の意見も聞いてみようかと思う。


しかし、兄がそういう理由で選んだかは不明だ。本当にみかんが好きだったのかもしれないし、推し自治体の返礼品がたまたまみかんだった可能性もある。


推しに課金できればそれで良く、みかんはライダーカードを抜いた後のチップスみたいなものなので私にくれたのかもしれない。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

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