第100回/理想的な金との関係とは

文字数 2,394文字

お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の旅は、今回で100回め、そしてナント最終回!

長い間応援してくださった皆様、どうもありがとうございました!


果たして資産2兆円はどのくらい実現できたのか…⁉

本連載は今回が最終回である。


一応「100回」で区切りということだが、正直続けようと思えばまだまだ続けられたと思う。


何故なら「金に関する愚痴」がなくなることなどありえないからだ。今この瞬間、財布や通帳を開くだけで、言いたいことが10個ぐらいでてくる。


この現象は、貨幣制度が崩壊し、米と動物の死骸を交換する世界観にならない限りは、一生続くだろう。


仮にそうなったとしても、「金を得るのが下手」という悩みが、「獣を捕まえるのが下手」「俺の稲はすぐ腐る」という悩みに代わるだけだと思うが、金という制度が生まれたせいで、我々は一生、金に振り回されることになってしまった。


まさに「性欲」と並んで我々の人生を台無しにするツートップの一角に相応しいが、最初から否応なく存在する性欲と違って、金は人間が自ら作り出したものであり、さらに金のせいで「労働」という、諸悪の根源まで生み出されてしまった。


何故、わざわざこんなものを作り出してしまったのかとも思うが、金があるから、我々イノシシに逆に食われたり、稲を苗の段階で腐らせるタイプが生きていけているのかもしれない。


金を得るのは最上級に難しいが、金のシステム自体は簡単であり、金さえもっていれば、少なくとも国内では生きていくことができる。


だが、もし金のように、国内どこへ行っても共通の価値があるものが存在しなかったら、世の中はさらに複雑化していただろう。日々変化する獣肉や米のレートを考えて生活せねばならず、県境を越えた瞬間、さっきまで、巨万の富だった鹿肉がジンバブエドル化するなどの現象にも対応しなければならない。


何を育てても腐らせるような「腐り手」にとっては、その世界の方が明らかに難易度が高い。


全ての不幸の源である労働も「労働さえすれば金が手に入る」というシステム自体はわかりやすく親切といえなくもない。ただ労働の内容が不親切極まりないというだけだ。


つまり、金で不幸になりがちな我々だが、金がなかったら不幸を感じる前に野タレ死んでいたかもしれないということである。


また自力で幸福を感じる力が乏しい人間も、金という共通の価値があるものが存在するおかげで「お金が増えて嬉しい」などの単純な幸福を得られるようになったとも言える。


だがこういうタイプは「お金があって幸せ」ではなく「金がなくて不幸」というシチュエーションに陥りやすい傾向があったりもする。


だが金のせいで、持っている奴と持ってない奴の間で格差が生まれ、金によって不幸になっている人間が多いことは事実だが、その点を平等にしようとした共産主義が羨ましいかというと「まだ日本の方がマシ」という結論で閉廷するような気がする。


ここまで文明が進化したのも、金のような持っていることで他者より優遇されるものが存在し、それを多く得ようと能力がある人間が努力した結果ともいえ、それがなければ我々は未だに竪穴式住居だった可能性もある。


ただ近年では、向上心のある人間のおかげで生み出された、ネットやスマホなどの文明にかじりつき、ますます生産性を失う者が現れているという問題もある。


そういうタイプを見ると「自己責任」として、救済不要を唱えたくなる気持ちもわかるが、誰でも不慮の事故などにより生活能力を失う可能性はある。


それら全てを「ノー生産ノーライフ」として雑にまとめると、己の首を絞める結果になりかねない。


努力した人間が、金を手に入れ、他より豊かな生活を手にいられれるのは正しい。ただ、それができない人間でも死なずに済むのが、真に正しい資本主義文明国だろう。


ただ現在、東大授業料値上げが問題になっているように、金のない家に生まれた時点で努力することすら難しい、という事態が発生している。


やる気と能力のある人のおかげでここまできたのに、このままではそれらを持っている人がこの国で頑張る気力を失ってしまうので、金はないけどやる気がある人間ももっと支援すべきだろう。


ただ、産まれた瞬間から、金を得る道が閉ざされがちになっている一方で、金の得方が多様化しているのも事実である。


一昔前まで「貯金が趣味」と言ったら、家と会社の往復のみで、休日は一歩も外に出ず、通帳の残高を見ながら股間を触るのが唯一の楽しみという、ある意味では面白いが、基本的につまらない生活を送る人間を想像したかもしれないが、最近はユーチューバーのように趣味を兼ねた金の得方もあり、「趣味は金」というのも十分成り立つようになった。


私も興味の幅が狭く、無趣味な方だが、さすがに金への興味は強いので、金情報を集めるのが貴重な趣味の一つになりつつある。


しかし「魚釣りが趣味」であれば、例え釣果ゼロでも「冷蔵庫のサバまで消えた」という現象は起きないが、金を趣味にすると、金を得られないばかりか手持ちの金まで消えるという怪現象が起きることもあるので、趣味としては上級者向けと思ってほしい。


そんなに焦らなくても、金との関係は一生続くのだ、燃え上がるようなひと夏の恋ではなく、腐れ縁を目指していきたいところである。

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

X(旧Twitter)はこちら:@rosia29

NEWS!

次週からはカレー沢薫氏による新連載「なで肩格差図鑑」がスタート!


ニッポンを代表するひきこもりマスター・カレー沢薫が、いろんなところにある「格差」についてにゃっっと語ります!(たぶん)


掲載はいつもと同じ毎週金曜昼の12時更新!

よいこのみんな、指折り数えて待っててね!

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