第53回/“投資”について本気出して考えてみた
文字数 2,328文字
稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫がtreeに帰還!
前作「ひきこもり処世術」で大ひきこもり時代を総括したひきこもり・ジェダイ・マスターが次に取り上げるのは……「お金」!
お金にまつわる四方山話を集め資産2兆円(脳内)を目指すカレー沢薫の新たなる旅が始まるーー。
今の時代投資をした方がいい、と言われるが、日本人は投資慣れしていないのと「元本割れする可能性がある」というシステムから、「何それ知らん…こわ…」となったまま実行に移せない者が多いと思われる。
そんなギャグマンガ日和勢でも比較的簡単、そして低リスクで出来る投資として勧められているのが、iDeCoとNISAである。
私もこの二つをやっているが、正直理解してやっているかというと「やれば儲かるって言われたから」と振り込め詐欺の末端みたいな供述しかできないが、そんな何もわかっていない社会の捨て駒でも利益が出しやすく、少なくとも大損をする可能性があまりない投資がiDeCoとNISAだ。
ただ、iDeCoは掛け金がそのまま控除になり税金が安くなるなど、割とメリットがわかりやすい。
対してNISAは本当に何が良いのかわからないままにやっている感がある。
そんなNISAが2024年から大幅アップグレードするらしい。
よくわからないものがアップグレードすると言われても、わからなさが倍増するだけのような気もするが、一応何が良くなるのか調べてみることにした。
そもそもNISAの何がいいかというと、普通株や投資信託などに投資した場合、売却益や配当に対し「20%」という割と法外な税金がかかる。
しかし。NISA口座で購入した金融商品に関しては、一定期間、利益が非課税になるそうだ。
20%がゼロになるというのはでかすぎる。120円のジュースが100円という昭和に戻るレベルだ。
ならばNISA口座で株や投信を売買しまくればいいと思うが、当然購入限度額があり、積立とスポット購入が両方できる「一般NISA」で年間120万、積立のみの「つみたてNISA」だと年間40万円までしか購入できない。
さらに永遠に非課税というわけではなく、一般NISAは購入から5年、つみたてNISAは20年で非課税期間が終了する。
しかも、一般NISAとつみたてNISAを両方やることはできず、どちらかを選ぶ必要もあった。
それが2024年から、一般NISAは「成長枠投資」と名前を変え240万まで投資可能、つみたてNISAも120万まで限度額が上がるそうだ。
併用も可能で、最大360万の投資がNISAで可能になる。
さらに、非課税期間が「無制限」となり、保有限度額も一般で600万、つみたてで800万までだったのが1,800万円まで上がっている。
どこをどう見ても破格のアップグレードのように見えるが、この改正にも大きな問題がある。
「NISAに最大360万まで投資できるドン」と言われても、その360万は自分で用意しなければいけない、という問題である。
年間360万円投資に回せるのは結構な富裕層であり、セレブの便所が自分の部屋より広いのと同じように、年収よりNISAの投資限度額の方が高いという人もザラにいるだろう。
つまりこのアップグレードは、元々NISAに回すだけの余剰資金があり、さらにもっとNISAに投資したいと考えている「余裕がある層」にしか関係も恩恵もないのである。
よって投資制度を厚遇する前に、国民に投資をやる余裕が生まれるようにしなければならはいはずだ。
しかし、現実は増税や保険料増額など、全国民から余裕を奪う方向にいっているようにしか見えない。
余裕を奪っておいて、余裕がなければできない投資を厚遇して勧めるというのは、国民に3日は飯が食えなくなる腹パンを食らわせたあとで、「この高級ビュッフェがお得に食べ放題!」と言っているようなものだ。
つまり、漫画に出てくるようなサイコパスキャラみたいなことを、国がやっているということである。
確かに改善は改善なのだが、もっと全国民に刺さる方策を先にすべきなのではないか。
むしろ「これだけ優遇してるんだから老後資金は自分で貯められるよな」という自助圧を感じなくもない、
とはいえNISA自体は悪いものではなく、今回大幅に良くなったのも確かなので、投資はやってみたいが何となく手が出なかったというギャグマンガ日和顔は、これを機に始めても良いのかもしれない。
よくNISAとiDeCoどっちをやれば良いのか、という話があるが老後資金を貯めたいならiDeCo、とりあえず投資をやってみたいならNISAらしい。
その前に両方「投資ができる資金がある人向け」なのだが、NISAに関しては100円から可能なものもあるようだ。
100円では利益など出ないと思うが、とにかく投資をやってみたいし「銀行に預けたって利子なんてつかないんだから」と言ってみたい、という場合はNISAの方が良いだろう。
また、いつでも取り崩せるというのもNISAのメリットだ。
逆にiDeCoは一旦かけ金を入れてしまうと、たとえ明日食うものがないと訴えても、原則60歳まで引き出すことが不可能なのである。
今まで定期積立を満期を迎えることなく解約した経験があるものは、間違いなくNISAに方が向いているし、むしろNISAにしておかなければ、金があるのに借金、というデブだけど餓死みたいな謎な事態になってしまうので、注意が必要だ。
山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。
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