女子駅伝ハードボイルド

文字数 1,004文字

 今年の箱根駅伝も終わった今、久しぶりに翻訳小説を読んでいる。ヒロインの刑事弁護士は、元夫の再婚が決まり、連日二日酔いで出廷中。そんな中、いわれのない罪に問われた少年の弁護依頼が舞い込み、弱きを助け強きを挫くとばかりに奮闘する――。その設定を目にした瞬間、嬉しくなった。これは1980年代に流行した3Fの流れを汲んだハードボイルドではないかと。
 3Fを夢中になって読んでいた時期があった。著者が女性、主人公は女性、そして読者も女性をターゲットとした小説は、ヒロインの職業が私立探偵というのがお決まりだった(中には新米女子プロレスラーのエヴァ・ワイリーという変わり種もいたが)。
 後に自ら小説を書くようになった時、最初にお手本にしたのは3Fだったし、デビュー作『女騎手』の探偵役に女性騎手を据えたのも、やはり3Fを意識しての事だった。
 この度、文庫となった『輝け!浪華女子大駅伝部』も、私立探偵こそ登場しないものの、私にとっては3Fハードボイルドである。
 主人公の千吉良朱里は、世界陸上競技選手権大会の選考レースで優勝した女子マラソン選手だが、怪我でチャンスをふいにする。そして、所属チームの休部をきっかけに、乞われて女子大の新設駅伝部の監督を引き受けた。そこに、厳しい現実と数々の困難が待ち受けているのも知らず。走ることで人生を切り開いてきた朱里は、つい「競技を続けていた方が良かった」と弱音を吐いてしまう。
 そんな朱里と、3Fのヒロイン達に共通するのは、いずれも任侠の気風を持つがゆえ、関わらなくて良い事に首を突っ込んでしまうお人好しで、ニヒルでクールなのに、何処か不器用。おまけに、埋火のように消しがたい心の傷やコンプレックスに苦しみ、いつもやせ我慢をしている。
 のらりくらりと適当に生きている私みたいな人間は、そんな彼女達がたまらなく眩しい。



蓮見恭子(はすみ・きょうこ)
大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学美術学科卒。2010年『女騎手』で第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビュー。近著に『シマイチ古道具商―春夏冬人情ものがたり』『MGC マラソンサバイバル』『たこ焼きの岸本』(2020年度大阪ほんま本大賞受賞作)、『バンチョ高校クイズ研』『涙の花嫁行列 たこ焼きの岸本2』などがある。

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