『宝の山』の宝探し

文字数 1,190文字

 二〇二〇年二月に刊行した『宝の山』がこのたび文庫になりました。
 解説をお願いした東えりかさんが、そのなかで単行本発売時に書いたエッセイ「五十三階を上る」に触れてくださり、懐かしくなってつい、当時のデータや写真を見直しました。エッセイの内容は、作品の舞台や情景のイメージ補強のためにふたつの山城に登ったというものです。石段や城址だけでなく、ソフトクリームや餅の写真まで残っていたのはご愛敬ですね。ちなみに村は架空の場所です。理由は、読んで察してください。
 一部、実際に存在する場所も作中にあって、その写真も残っていました。キーとなるものがある場所を、現実のわたしも捜していたのです。ただ、システムの変化によって、この三年余でなくなってしまったかもしれません。
 宝探しの気分でさらにさぐると、プロットのファイルもありました。最初のプロットのタイトルは「限界集落村おこし」。わたしはプロット段階では本のタイトルが決められないので、とりあえず、コンセプトやイメージ、テーマを元につけておくためです。
 このタイトルだと、村のためにがんばる人々の奮闘記……のようですが、『宝の山』は、地震で衰退した村を盛り立てる企画のためにやってきたブロガーが消え、そこからとある秘密に迫っていくという話です。この時点では、村の二大勢力の家の名前を、宝来家と宝満家としていました。二者の読み間違いを防ぐために、宝来家を来宝家と変えています。
 次のプロットのタイトルは、テーマに関わるのでここでは伏せますが、ヒントはファーストガンダムの各話タイトルです。この段階で、物語を引っ張るメインのキャラクターを、生まれたときから村に住んでいる希子と、かつて両親に連れられて村に移住した少年・耀に決めました。このふたりが足搔いて追及することで、取り巻くものの歪さを伝えようという考えです。
『宝の山』というタイトルをつけたのは、最初の原稿を直すころでした。
 どうして『宝の山』というタイトルなのか、サブのキャラクターも含めてそれぞれの人がなにを選択していくのか、どうぞ皆様の目で見届けてやってください。



水生大海(みずき・ひろみ)
三重県生まれ。教育系出版社勤務後、派遣社員に。1995年に秋田書店より漫画家デビュー。2005年に第1回チュンソフト小説大賞(ミステリー/ホラー部門)銅賞受賞。’08年に『少女たちの羅針盤』で島田荘司選 第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞し、翌年デビュー。続編に『かいぶつのまち』(光文社)。近著に『きみの正義は 社労士のヒナコ』(文藝春秋)などがある。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み