労働Gメンに会う!

文字数 978文字

「職業で小説を書いている者ですが、取材にご協力いただけないでしょうか」電話でいきなりこう伝えると、たいてい面食らったような反応が返ってきます。編集者さんが、「アポ取りしますよ」と言ってくれたこともありますが、いつも自分で電話します。
 
 労働Gメン=労働基準監督官を主人公にしたお仕事小説を書きたいと思い、管轄する厚生労働省東京労働局に連絡すると、執筆の趣旨を聞きたいとのこと。取材先にもひとりで向かいます。旧九段会館から北の丸公園に至るカーブを描いた内堀通りは、東京の好きな風景のひとつです。合同庁舎は、この通りにありました。初めてお目にかかった労働基準監督官(以下、監督官)は、ベテランの女性でした。非常に真面目な方で(不真面目な監督官というのもどうかと思いますが)、生活指導の先生といった雰囲気。かと思うと、そこはかとないユーモアを漂わせたりします。
 
 本省からのOKもいただき、飯田橋にある中央労働基準監督署に伺って、今度は性別も年代も異なるさまざまな監督官にお会いしました。仕事内容や組織構成、体験談をお聞きするのも重要ですが、なによりその職業に就いている方がまとっている空気感に触れることが大切なのだと常々思っています。
 
 さて、職場における賃金未払いや労働災害を監督するのは労働Gメンですが、パワハラやセクハラに関する指導を行うのは同じ労働局でも雇用環境・均等部(以下、コキン部)の担当になります。そうして、パワハラとセクハラはどうしても扱いたいテーマでした。そこで、監督官と指導官が部署の垣根を越えて事案に挑むという設定にし、コキン部にも取材させていただきました。お会いした4人の指導官の女性は、あらかじめ僕の著書を読んでくれていたようで、「ウエノさんが欲しいのは、こんなエピソードだと思う」と、一緒にストーリーを考えてくれたのです。というわけで、リアルなお仕事小説になりました!



上野 歩(うえの・あゆむ)
1962年、東京生まれ。専修大学文学部卒。1994年、『恋人といっしょになるでしょう』で第7回小説すばる新人賞を受賞。近著に『就職先はネジ屋です』『市役所なのにココまでするの!?』『鋳物屋なんでもつくれます』などがある。

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