まさかの海外進出!?

文字数 1,267文字

『ちびねこ亭の思い出ごはん』は、作者の生まれ故郷を舞台にした小説で、かなり個人的な内容だったりします。地元の人が読むと、高橋の実家の住所を特定できるらしいです。

 デビュー以来、妖怪時代小説を書いてきて、依頼も妖怪ものばかりでした。「妖怪の出て来ない現代小説を書きたいのです」と、いくつかの出版社にお願いしましたが、芳しい返事はなかったです。
 諦めきれず依頼されたわけでもないのに、勝手に『ちびねこ亭の思い出ごはん』の原型を考えて、光文社の担当さんに押し付けるようにメールしました。駄目だったら小説家を辞めようか、と思っていました。そういう意味では、「最後の記念のつもりで考えた小説」でした。
 すると、担当さんから前向きなお返事をいただき、紆余曲折を経て出版となりました。
 しかし、ほっとしたのも束の間、今度は、新型コロナ騒動で緊急事態宣言が出て、刊行されたときにはほとんどの書店が閉まっていました。当然のように売れず、「小説家廃業かあ」と落ち込んでいると、なんとSNSで話題にしていただき、増刷・続編決定となりました。

 その後、順調にシリーズは続いてはいますが、一部書店さんと一部の読者さまが応援してくださっているくらいで大きく売れることもありませんでした。書評らしきものは見当たらず、評判にもなっていない感じです。
「そろそろ終わってしまうのかなあ」と黄昏(たそが)れていると、担当さんからメールが届きました。

 ――翻訳出版の申込みがございました。

 それも1件や2件ではなく、2024年1月時点で15カ国!? アジア圏、ヨーロッパ圏と、作者もびっくりの勢いでした。本当にありがとうござます。とりあえず何カ月間か廃業せずに済みそうです。

 このまま翻訳していただけたら、各国の猫の鳴き声を並べてみたいです。お気づきの読者さまもいらっしゃるかと思いますが、『ちびねこ亭の思い出ごはん』では、猫によって微妙に鳴き方を変えているんです。海外版では、猫の鳴き声がどうなっているのか楽しみです。

 それでは、『ちびねこ亭の思い出ごはん』シリーズをよろしくお願いいたします。



高橋由太(たかはし・ゆた)
1972年千葉県生まれ。 2010年、第8回 「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉として『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』(宝島社文庫)でデビュー。「オサキ」シリーズ、「ぽんぽこ」 シリーズ、「猫は仕事人」シリーズなど、多くの時代小説の人気シリーズ作品を執筆している。時代小説以外の作品に「黒猫王子の喫茶店」シリーズ、「作ってあげたい小江戸ごはん」シリーズ、「あやかし和菓子処かのこ庵」シリーズのほか、『あなたの思い出紡ぎます 霧の向こうの裁縫店』『神様の見習い もののけ探偵社はじめました』などがある。

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