ファンタジーとミステリー

文字数 1,053文字

 私は元々ファンタジー小説書きで、剣(銃)と魔法の冒険譚ばかり執筆していた。ファンタジーは良い。そこには作者の妄想を惜しみなく投影することができ、現実では有り得ないこともファンタジー世界ならば可能だ。自由で、恋愛、バトル、何でも盛り込める。そんな私のデビュー作は、あろうことか現代の大学院に通う理系の女子(リケジョ)が主人公のミステリー「神楽坂愛里の実験ノート」だった。魔法も使えない、武器を持つことも許されないガチガチに縛られたリアルな世界。どうしてこうなったのか。
 理由をふたつ述べたい。まず、単純に私が理系出身であったこと。物語の主な舞台は1、2巻を書いていた大学院生の私にとってまさに身近なものだった。主人公のリケジョである愛里には私の憧れと矜持を、相棒役の颯太には冴えない私を投影した。サブキャラも自分の身の回りにいる人物を参考にさせてもらった。つまりは、書きやすかったのだ。お陰で描写はリアルなものになっていると思う。理系の読者がいたらぜひ自身の環境と比べてみてほしい。
 もうひとつの理由は、ミステリーもファンタジーと同じく自由だと気付いたからだ。50匹ものラットが一夜にして全滅、ミスコンの壇上で倒れる期待の星、動く血塗れの死体、ホテルの部屋の溺死体、日本の食糧危機——現実では有り得ないような事件をトリックで描く。ファンタジーがストリートアートのようなものなら、ミステリーはキャンバスという括りのあるものに描く絵画だ。どちらも自由に絵を描けることには違いない。要は、私は自由が好きなのだ。鬱屈とした現代社会から解放される場所——それこそが私にとって小説というものなのだ。
 理系小説と聞くとどうにも近寄りがたいイメージがあるのではないだろうか。安心してほしい。前述の通り私はライトなファンタジー畑の出身で、お堅いものを書く気は全くない。作中の専門知識も授業で習う程度、専門用語にも解説がしっかりとある。理系でなくても全く問題ない。むしろ(理系の)大学ってどんなところなのだろうという疑問を解決する本としても役立つだろう。華やかで美しい表紙に惹かれたらぜひ手に取って読んでほしい。



絵空ハル(えそら・はる)
埼玉県出身。エブリスタに掲載された『神楽坂愛里の実験ノート』でデビュー。
東北大学大学院農学研究科修士課程修了。
学生時代、研究の傍ら作品を執筆。
現在も企業で食品の研究を続けている。


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