流行りに乗っ・・・・・・た?

文字数 1,111文字

 僕は天邪鬼である。
 タピオカが流行っていたころは行きつけの居酒屋で日本酒入りのシャーベットを食べ、ストリーミングが主流になっている昨今でも頑なにCDを買い続け、もちろんスマホなど持たずに絶滅危惧種になりつつあるガラケーを使い続けている。
 そんな僕が、世界的にブームになっているウイスキーを題材にしたミステリを上梓するのだから、仲のいい友人たちから「三沢さんっぽくないっすね」と云われても不思議ではない。だが、それは誤解である。僕が本作を書いたのはデビューしてすぐのことで、NHKの連続テレビ小説「マッサン」が放送され(二〇一四年九月~二〇一五年三月)、ちょっとだけウイスキーが注目されていたころだからだ。
 活字になったのは仙台のタウン誌「りらく」さんの連載が初めてで、それでさえも二〇一八年のことである。また、僕が旧友にウイスキーの魅力を教わったのは二〇〇四年だった。だから、決してブームに乗じたわけではない。
 と、強調したはいいが、僕っぽくなく、ウイスキーブームに乗っている感じは否めないとも思っている。けれども、文章はいつもと同じだし、描写や表現も従来と変わらない。違うのは、光文社文庫の編集長さんのアドバイスに従って大きく改稿し、まるで脱皮するかのように拙作が変化した点である。作者である僕でさえも、生き物を扱っているような気分になって驚いたのだから小説はやはり面白い。自分が書いた人物や風景やウイスキーたちが活き活きと動き、変わっていくのを実感したのは初めてのことだった。当然ながら連載時のものにも全力をこめたし、あれはあれで気に入っているので、まるで新作を書いた気持ちである。
 三沢陽一という名前を忘れずに新作を待っていてくださった方々が、この世にどれくらいいるのかは判らない。もしかしたら本当に一握りで、数十人しかいないかもしれない。でも、そんな天邪鬼な方々がいるからこそ、こうやって本格ウイスキーミステリという珍しい本を世に出すことができた。そのことに僕は深く感謝している。このお礼の言葉に嘘偽りはない。
 僕は天邪鬼だが、これだけは「っぽくない」本音である。



三沢陽一(みさわ・よういち)
1980年長野県生まれ。仙台市在住。東北大学SF・推理小説研究会出身。2013年、第3回アガサ・クリスティー賞を受賞し、受賞作を改題した『致死量未満の殺人』でデビュー。著作に『アガサ・クリスティー賞殺人事件』『不機嫌なスピッツの公式(マイルール)』『華を殺す』『グッバイ・マイ・スイート・フレンド』などがある。

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