食いしんぼうの夢

文字数 1,194文字

 長年書いている「ぶたぶた」シリーズの中で、特に人気を集めているのが、食べ物を扱った作品です。
 最新刊の『湯治場のぶたぶた』でも、おいしいものを出していますが、今回、特に思い入れがあるのがビワです。ビワ―私がもっとも好きな果物の一つ。他にもたくさんあるけど(絞りきれない)。
 どうしてこんなにビワが好きなのかというと、小さい頃、食べすぎてお腹を壊したことがあるからです。そんなことあったら嫌いになりそうですけど、ならない。いろいろなものを食べすぎてひどい目にあってますが、それはそれ。治ったら忘れるのが食いしんぼうの(さが)です。
 話を戻すと、お腹を壊したっていっても、ただいっぱい食べただけじゃないですよ。木に登って食べたのです。枝の股に座り込んで、手の届く範囲のビワをもいでは食べもいでは食べしていたら、そのあと大変なことになったという―五歳くらいの頃かなあ。ほぼ猿ですね。当時、父親の実家(農家)の庭(周辺?)にビワの木があったもので。
 とはいえ、木に登って食べた記憶は一度だけ。実家には何度も行ったはずなのに。まあ、お腹を壊したわけですから、止められていただけかもしれません(絶対そうだろ)。
 でも、あれはとても楽しかった。食いしんぼうには食いしんぼう特有の夢があると思うのですが、「木に登って、なっている実を好きなだけ食べる」というのはかなりレベルの高い夢ではないかと。それを五歳で叶えた私。
『湯治場のぶたぶた』に山に自生するビワが出てくるのは、この思い出があるからです。湯治場自体も、関東の山奥にある父方の実家の近辺をモデルにしています。
 最近はビワ食べてない。東京で売っているものは高いから。しかも日持ちはしないし、種が大きくて食べられる部分が少ない。わかっているのです、あまり注目されない果物だって。でも、ビワって皮がとてもむきやすくて、パクパク食べられちゃう。香りもよくて、瑞々しい。ああ、もうちょっと日持ちするなら、もっと人気出るのになあ。



矢崎存美(やざき・ありみ)
埼玉県出身。1985年、星新一ショートショートコンテスト優秀賞を受賞。'89年に作家デビュー。著書に「ぶたぶた」シリーズのほか、「食堂つばめ」シリーズ、「NNNからの使者」シリーズ(以上、ハルキ文庫)、「繕い屋」シリーズ(講談社タイガ)、「神様が用意してくれた場所」シリーズ(GA文庫)、『キルリアン・ブルー』(TO文庫)、『あなたのための時空(とき)のはざま』(ハルキ文庫)ほか多数。
矢崎存美|note
https://note.com/yazakiarimi

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