脳の凹凸と人間関係

文字数 1,159文字

 新入生や新社会人、あるいは季節を問わず新たな生活環境が始まる方たちにとって、最も憂鬱で不安なものに、周囲との人付き合い——つまり「人間関係の構築」が挙げられるかもしれません。それは早ければ保育園や幼稚園の頃にはすでに始まり、学生時代から今を生きる人たちすべてが、年齢性別を問わず向き合い続けているものだと思います。

 しかし冷静に考えてみると、この人間関係の構築。会社の同僚、上司と部下の関係、ご近所付き合いからママ友など「社会」との間のみならず、親戚付き合いや夫婦関係に始まり、兄弟姉妹から親子まで血縁の遠近や有無を問わず「身内」とも構築しなければなりません。それらすべてに囲まれている自分に気づいた時、相談する相手もなく、知識や装備を持たずに挑めば、傷つき疲れ果てるのは当然のこと。そんな身近でありながら永遠の課題でもある人間関係の構築の基本として「相手を知ること」が挙げられますが、これがまた容易ではありません。そのための新書や講演、動画やネット情報などが世に溢れ、様々な角度からアプローチされているのも必然。ですがこれは、困難なAを達成するための手段Bがさらに困難だという、一番心が折れるパターンではないでしょうか。

 そこで「がんばらない人を応援する」をコンセプトとしている本シリーズの第三弾には、相手を知る手段のひとつになり得る医学的な知識「高次脳機能」をテーマに選びました。なぜ脳の高次機能(ハイファンクション)について知ることが相手を知ることに繫がるのか、そもそも高次脳機能とは何なのか——それを上司と部下の関係、社員の親子関係を題材に、前作で不安を飼い慣らす方法=認知行動療法を知った主人公の奏己が、本作では「誰にでも高次脳機能には凹凸がある」ことを理解し、その視点を自分の「内側」から、他者を理解するために「外側」へと向け始めます。

 前二作に引き続き三作目も手に取ってくださった方たちには、これからの良好な人間関係のため、ひとつでも多くの知識を得ていただければと願っています。



藤山素心(ふじやま・もとみ)
広島県出身。東京都在住。医師。2017年にホビージャパン主催のHJ文庫大賞(現:HJ小説大賞)で金賞を受賞。以後は「江戸川西口あやかしクリニック」シリーズ(光文社キャラクター文庫)、「おいしい診療所の魔法の処方箋」シリーズ(双葉文庫)、「はい、総務部クリニック課です。」シリーズ(光文社文庫)、『呪ワレ者』(マイクロマガジン社)など、一般小説から児童書まで幅広く執筆している。

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