あなたの生まれは公園ですか?

文字数 1,063文字

 近ごろ親しい編集者に叱られます。
「原稿をもらうたびに、困るんだよな。どーするんだよ、こんなムチャクチャな展開もってきやがって、いったいどこに着地する気だよ?! 貌が歪んじゃうよ」
 連載原稿を受けとる編集者は、私の紡ぎだす物語の筋書きが常識的な作劇範囲を大きく超えてしまっていることに、不安を覚える場合があるそうです。
 心配をかけてごめんなさい。でも私には頭の中に完全な絵がある。それに従って単語を配置していく。すると言葉が私の脳裏の絵解きをおこなってくれる。
 仲村ヒカリさんの戸籍謄本には、本籍地が養護施設の前にある公園=光が丘公園となっています。どういうことでしょう。
 私は悪ガキを抛り込む施設で育ったのですが、中学を卒業して就職というころに皆が戸籍を取り寄せました。
 なぜかI君は、頑なに戸籍を見せようとしなかった。傍らにいた悪ガキがI君の手から戸籍を奪いました。
 I君の本籍地は『東京都台東区上野恩賜公園』となっていました。I君は上野公園に棄てられていたのです。
 親と一緒に暮らしている、あるいは親にきちっと育てられたあなたには想像もつかないでしょうが、世の中には出生地が公園である人もいるのです。
 確かにそうかもしれないけれど、それはごく稀なこと──と思ったあなたは正しい。稀であるということは、その他大勢ではなく、選ばれた者であるということなのです。
 遠い昔から、宇宙を天翔る仲村ヒカリさんの美しい姿が私の脳裏にこびりついていました。そこで習作として〈GA・SHIN!〉という作品を書き、決定稿としてこの〈ヒカリ〉を書きあげました。
 言語表現ならではの超越的世界にあなたを御案内します。凄いですよ。是非──。



花村萬月(はなむら・まんげつ)
1955年東京生まれ。’89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。’98年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、同年、『ゲルマニウムの夜』で第119回芥川賞、2017年『日蝕えつきる』で第30回柴田錬三郎賞を受賞。他の著書に『二進法の犬』「私の庭」シリーズ、『いまのはなんだ? 地獄かな』『心中旅行』『対になる人』『花折』『夜半獣』『ハイドロサルファイト・コンク』『姫』『GA・SHIN! 我・神』『槇ノ原戦記』など。

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