脚本と小説の違い

文字数 1,071文字

 この小説は文庫書き下ろし……ではなく、2021年に上梓した『人生脚本』です。
「なんだ、だったら買わない」と仰る方、お読みいただきありがとうございます。でも、こちらも読んで下さい。印象が違うと思います。再度校閲が入り、編集者からの注文もあってかなり修正しました。
 いや、直したかったんです。私はテレビドラマを主戦場にしている脚本家なのですが、脚本は監督他スタッフとキャストによって具現化され、視聴者に届けられます。脚本家が書いた文章を視聴者が読む機会はほとんどありません。文章的に酷くてもスタッフキャストに意図が伝われば作品の出来に問題はありません。しかし小説は作家が書いた文章がそのまま読まれてしまいます。単行本の時もそれを意識して書いては直しの繰り返しでしたが、文庫化にあたって読み返すと汗顔の至りで……全編にわたってブラッシュアップし、冒頭の構成も変更しました。
 一番大きな変更はタイトルです。
 これは、メインキャラクターの一人であるライターが取材で会った女性死刑囚に投げつけられる言葉です。彼は魔女に惑わされたマクベスのようにこの言葉に縛られます。
 物語の主人公は彼が大学時代に好きになった女性です。彼女は彼の親友と結婚し、一人息子を授かります。しかし息子は不慮の事故で亡くなり、その時夫が不倫していたことが判って夫婦間に亀裂が生じています。
 ある日夫が列車事故に巻き込まれたという知らせを受け、彼女は彼とともに事故現場に向かい、夫の死体を確認するのですが……。
 帯の“サスペンス小説の王道”との惹句は面映ゆいばかりですが、これは青春小説でもあり、恋愛小説でもあると思っています。
 元々はテレビドラマとして考えていたストーリーです。関係者のみなさま、列車事故のシーンはお金がかかるかもしれませんが、映画化、ドラマ化を是非ご検討下さい(笑)。



伴 一彦(ばん・かずひこ)
1954年、福岡県生まれ。日本大学芸術学部卒。1981年ごろから映画の脚本家としての活動を開始。’80年代半ばからはテレビドラマを中心に多彩な作品を手掛け、『うちの子にかぎって…』『パパはニュースキャスター』『君の瞳に恋してる!』『デカワンコ』『シンデレラデート』など代表作多数。近著に『追憶映画館 テアトル茜橋の奇跡』(PHP文芸文庫)がある。

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