おんじょが政界に喝!

文字数 1,554文字

 政治家の堕落が止まらない。莫大な裏金に脱税、()(べん)(どう)(かつ)、責任逃れ、老害――国会はいまや、呆れるばかりの小物、()(きょう)(もの)の集団と成り果てた。こんな愚劣で()(そく)な連中に国家を切り回せるはずがない、と絶望にかられる向きも多いのでは。
 一方、保身に()けた政治家の()(まん)を追及すべき大マスコミも、テレビ、新聞そろって(はん)(こつ)のはの字も無い骨抜き状態。政治家どころか、芸能事務所やお笑い芸人にも平伏、(そん)(たく)しまくりで、いまや全国民の嘲笑の的である。世の耳目を集めるスクープは文春砲をはじめ、週刊誌の独壇場となってしまった。
 どこかに、この惨状をガツンと(かっ)()する、骨のある人物はいないのか? そんな願望を胸に、書き上げたおんじょ(鹿児島弁で言うところのおじさん)が拙著『霧島から来た刑事』の主人公、()()(まさ)(ゆき)(元鹿児島県警刑事)である。続編となる本作で、古賀はたたき上げの若手政治家、(はっ)()(とし)(なり)と対峙する。愛妻を喪い、自分を〝おやっさん〟と慕う元極道を救うべく捨て身で上京した古賀に、もはや怖いものは無い。
 野心の(ごん)()の八田はカルト宗教のカネ・組織力をバックに、総理を目指す、したたかで危ない政治家である。都営団地で育った八田はカルトにすがる己を正当化すべく、()(しゅう)が横行する国政への怒りをぶちまける。曰く、地盤、看板、カバン(資金力)の三バンが用意された世襲政治家は楽々当選、庶民が馬鹿正直に戦って勝てるわけがない、各界から優秀な人材を集めるべき国政が無能な世襲政治家どもの家業に成り下がった――。
 (しん)(さん)を舐め尽くしたたたき上げ政治家の、火を吹くような(ふん)()、ルサンチマンに耳を傾けた古賀は、こう喝破する。
「議会制民主主義の体制下、世襲のぼんくらどもを国会に送り込んでおるのは有権者でごわす」「有権者のレベルより高い政治は存在しないとも申します」
 霧島おんじょの辞書に忖度、(つい)(しょう)の文字は無い。絶滅寸前、天然記念物級の愚直な生き様を読んでいただけたら幸いである。



永瀬隼介(ながせ・しゅんすけ)
1960年 鹿児島県溝辺町(現・霧島市)生まれ。週刊新潮記者を経て’91年独立。本名 祝康成名義で『一家四人惨殺「十九歳」犯人の現在』(月刊「新潮45」掲載)等、主に犯罪ノンフィクションを手がける。その後、劇画『ゴルゴ13』の原作脚本も多数執筆した。2000年、『サイレント・ボーダー』(文藝春秋)で小説家デビュー。事件現場の最前線で培われた取材力と洞察力、テーマの重厚さなどで注目される実力派作家。著書には、映画化された『閃光』(角川文庫)ほか、『永遠の咎』『誓いの夏から』『罪と罰の果てに』『悔いてのち』(光文社文庫)『カミカゼ』(幻冬舎文庫)『最後の相棒』(文春文庫)『殺し屋の息子』(中央公論新社)『属国の銃弾』(文藝春秋)など。ノンフィクション作品に『19歳 一家四人惨殺犯の告白』(角川文庫)『疑惑の真相「昭和」8大事件を追う』(角川文庫)などがある。
『霧島から来た刑事 トーキョー・サバイブ』は、「ban」に連載され文庫化されて好評を博した『霧島から来た刑事』の続編である。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み