元彦&紫堂

文字数 1,370文字

『平家谷殺人事件 浅見光彦シリーズ番外』は浅見元彦(・・)と内田()(どう)が、明治時代の土佐で事件の謎を解く物語である。主人公が浅見光彦のご先祖とあって、キャラクターをどのように設定するか、これは難問だと身構えていた。何事にも心配性の私は、きっと夜も眠れないくらいに悩むだろうと。
 ところが意外にもするすると決まった。まるで元彦のほうからこちらにやって来たかのように。
 浅見光彦のように爽やかで礼儀正しいが年は十歳ほど若く、シャイでとある(・・・)理由から少し陰のある性格とした。そして長身でイケメン。女性にはもてるが、子供から高齢の女性までに親切で優しい。なかなかに私の理想の男性となった。
 元彦のキャラが決まり、他の登場人物もだいたい決まったところで、なにか物足りないという気がした。やはり元彦ではインパクトが足りないのではないか、と悩み始めた。これは浅見光彦の存在が大きすぎるためだと思われる。
 そこで主人公を照らし出す、明るいキャラクターを登場させたいと考えた。
 内田康夫先生のご先祖、内田紫堂である。
 元彦とは逆の、明るく屈託のない性格。一見がさつに見えるけども繊細なところもある。尾崎紅葉がライバル。そして長身、イケメンだ。
 二人は親友で心の裡をなんでも話すことができ、協力して事件を解決する。「友情・謎・解決」である。少年漫画の三要素は「友情・努力・勝利」だそうだが、ちょっと似ている。
 私はバディものが大好きだ。「ボッシュ」という刑事物のドラマの中で、二人の刑事が相棒である互いの体型を揶揄する場面がちょくちょく出てくる。「ビヤ樽」などと呼ぶのだが、深いところで信頼しているので意に介さない。そんなシーンを見るたびに胸がキュンとする。
 だれでも余計なことを言って後悔することがあるが、彼らはきっと笑って許すのだろうな、などと想像する。ドラマの中の話だとわかっていても、「男同士の友情っていいなあ」とときめくのだった。
 ぜひとも内田紫堂を登場させたいと思った。だが、いざ打ち合わせでこの提案をするときになって、いつもの心配性の癖が出た。
 ご本人の了解も得られないのに、勝手にご先祖様を登場させるなんて、「失礼にも程がある」とか、「この不届き者め」などとお叱りを受けるのではないか。もしそう言われたら、「ですよねえ。私もそう思っていたんです」という返しのセリフまで練習していた。しかしそれは杞憂だった。「面白い」と言っていただいたのである。
 かくして元彦&紫堂という心ときめくバディが誕生したのだった。
 美しい土佐の風景の中で、二人が活躍するさまをお楽しみいただけたら幸いである。



和久井清水(わくい・きよみ)
北海道生まれ。北海道在住。第61回江戸川乱歩賞候補。2015年宮畑ミステリー大賞特別賞受賞。内田康夫氏の遺志を継いだ「『孤道』完結プロジェクト」の最優秀賞を受賞し、『孤道 完結編 金色の眠り』で作家デビュー。著書に『水際のメメント』『かなりあ堂迷鳥草子』などがある。

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