織田の筆侍、曰く

文字数 1,073文字

 この物語には読者の方の「鼻につく」仕掛けがいくつかなされています。
 まず、歴史小説にはそぐわない、一人称独白形式、しかも「です・ます調」です。さらに、視点は、タイトルで主人公と思しき丹羽長秀からではありません。他にも、もろもろ。なので、正統派歴史小説(?)ファンの方は「やっとみつけた通好みの武将の熱き物語かと期待したのに、なんか違うぞ!」と思ってしまうかもしれません。
 わけをお話ししましょう。この本、私の3作目を文庫化したものです。本作を単行本として書き下ろしたときの私は、まだデビューさせてもらった出版社さんから2作出しただけ、光文社さんとは初めのお仕事でした。そんな駆け出し作家だった、私、佐々木功。まだ作風も評価もさだまらぬ、えたいのしれない男(評価はいまもさだまっていないか?)。 なのに、私は、そんなペーペーらしからぬ挑戦を本作でしてみたいと思ってしまったのです。新人ゆえの暴走なのか……。光文社さんもよく許してくれたものです。
 で、題材を「丹羽長秀」にしました。この経緯は刊行時にエッセイにしたことがあります。でも己が好きだからって書いていいもんじゃない。いや、人気作家の先生がその熱烈なるファン層の支持のもと、練達の筆致で書くのならいいのです。佐々木功? 誰それ? なんで丹羽長秀? 地味だな……ですよね、ハイ。でも、これには重大な意味があるのです。だから丹羽長秀なのです。鍵は、織田信長の史伝『信長公記』です。
 理由の説明になってないですかね……。こうして生まれたのが本作です。冒頭の通り、読みだせばいきなり好みがわかれてしまうかもしれません。ああ、でも、読者の皆さん、お願いです。どうか途中で投げ出さず、最後まで読んでください。
 通好みの仕上がりではないかと、本作の語り部・太田牛一も申しておりますので。



佐々木功(ささき・こう)
大分県大分市出身。早稲田大学第一文学部卒業。織田四天王の一人と言われながらも謎の多い滝川一益に光を当てた『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』で、第9回角川春樹小説賞を受賞し、デビュー。猛将や智将など、戦国の世の男たちを魅力的に描くことを得意とする。著書に『慶次郎、北へ 新会津陣物語』『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』『天下一のへりくつ者』『真田の兵ども』『たらしの城』がある。

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