直径45センチの相棒

文字数 992文字

 私には執筆に欠かせない相棒がいる。新人賞に応募し、二年連続最終候補止まり、という状況で、何か変化を、と考えていた。押し入れを物色すると、空気を抜かれぺしゃんこのバランスボールがあった。
「これ、使えるかも」せっせと膨らませ、パソコン机の前に置いた。試してみると小柄な私にはとても具合がよく、快適だ。たまにピョンピョン弾んだり、足を浮かせてバランスを取ってみたり、気分転換にもなる。心なしか執筆のスピードも増した気がした。ただ当然ながら安定感はない。思えば、受賞の電話を待つときもバランスボールに座っていた。連絡がくるはずの時間はとうに過ぎ、ひたすら待った。いざ着信音が鳴ると慌ててしまい、転げ落ちそうになったのを覚えている。
 そんな相棒の上で書かれた『青い雪』が文庫になる。
 ビルの屋上から転落し、「青い雪……」というひと言を残して死んでいった一人の少女。巻き添えで命を奪われた女優の幼い娘が目撃したのは、赤い薔薇と空から舞い落ちる白い雪。最期の言葉「青い雪」の謎が残る。
 エピローグを置き去りにして動き出した本編には、四人の幼なじみの少年少女が登場する。大切な人のために何が出来るか。自分の胸に誇れる行動とは何か。悩みながら成長していく登場人物の誰かに心を寄せて、その子ども時代や青春を読者に見守ってもらえたなら……。
 物語の最後で、「青い雪」という言葉に込められた意味が明らかになる。主人公が知ることのない、その秘められた想いをどうぞあなたが受け取ってください。 

 奇しくも相棒のバランスボール、色は青だ。青は私の一番好きな色。「青」には、若い、とか未熟という意味合いもある。初心を忘れず、これからもこの相棒と執筆に励みたい。時間が経つと、張りが失われるのは仕方ない。またせっせと空気を注入しながら、同時に新たな構想もどんどん入ってきてくれるのではないか、などと妄想している。



麻加朋(あさか・とも)
1962年東京都生まれ。
2021年「青い雪」で第25回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、翌年デビュー。その他の著書に『ブラックバースデイ』(光文社)がある。

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