刑事と拳銃

文字数 1,060文字

 犯人と対峙する刑事が、上着の中のホルスターから拳銃を抜く。
「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」
 刑事はそんなお決まりのセリフと共に犯人に銃を向け、警察手帳をかざす。
 犯人も銃を手にして抵抗し、刑事が撃ち返す。日本の警察小説やテレビの刑事ドラマで、普遍的に見掛ける光景だ。
 だが、アメリカならばいざ知らず、日本ではまずそのようなことはあり得ない。なぜなら日本の刑事は制服の警官と違い、通常の職務ではほとんど拳銃を携帯しないからだ。拳銃の使用許可が下りるのは暴力団事務所の捜索(ガサイレ)や、凶悪犯絡みの事件(ヤマ)など、特別に危険が予測される捜査の場合だけだ。
 実際に刑事が実弾を撃つのは、一年か二年に一度の射撃訓練の時だけだ。現場の職務で銃を撃つ機会は、一生に一度あるかないかだといわれている。だからこの乗り鉄刑事シリーズでも、登場する刑事が銃を手にするシーンは一度も書いたことはない。
 だが、シリーズ四作目となる今回の『野守虫』では、あえて主役の片倉康孝に拳銃を持たせてみた。
 片倉は刑事としても、けっして射撃が得意な方ではない。射撃訓練でも、満足に的に当らないほどだ。その片倉が巡査時代から馴れ親しんだニューナンブM60を手にして最凶最悪の脱走犯、竹迫和也と対峙する。
 今回のテーマは刑事と拳銃、その一発の銃弾とのリアルな距離感だ。
 刑事とはいえ、けっして超人ではない。一介の引退間際のロートル刑事が銃を握り、引鉄(ひきがね)を引くまで追い詰められた時に、いったい何が起こるのか――。
 今回の『野守虫』では、片倉の別れた妻・智子も、重要な役を演ずる。そしてその智子の存在が、片倉や竹迫の運命を少しずつ狂わしていく。
 衝撃のラストシーンに期待してほしい。



柴田哲孝(しばた・てつたか)
1957年東京生まれ。日本大学芸術学部中退。2006年『下山事件 最後の証言』で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)と日本冒険小説協会大賞(実録賞)、’07年『TENGU』で大藪春彦賞を受賞する。著書に『下山事件 暗殺者たちの夏』『チャイナ インベイジョン 中国日本侵蝕』『GEQ 大地震』『赤猫』『Dの遺言』『リベンジ』『ミッドナイト』『幕末紀』『ジミー・ハワードのジッポー』などがある。

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